衝突被害軽減ブレーキ(いわゆる「自動ブレーキ」。
この呼称に問題があることは承知していますが、本稿は「自動ブレーキは【全自動ブレーキ】ではない」という主旨の企画なため、いくつか「自動ブレーキ」という呼称をあえて使用しています)は、どのような場面だと作動しないのか。つまり、“ぶつからない車”が“ぶつかるかもしれない”のか。
最近は軽自動車を含めて、緊急自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)が幅広い車種に装着されている。事故防止に効果の高い安全装備だから、可能な限り装着したいが、常に作動するとは限らない。
だとしたら「作動しない可能性が高いケース」を覚えておくことは、とても大切なはずだ。
文:渡辺陽一郎/写真:編集部、SUBARU、NISSAN、TOYOTA、HONDA
【ケース1】朝日と夕陽、濃霧や雨で自動ブレーキが作動しない!?
カメラ方式は対象物を映像としてとらえるので、検知できる対象の種類も多い。機種によって異なるから一概にはいえないが、車両と道路に引かれた車線は大半の機能が検知できる。車両は衝突回避、車線は車線逸脱の警報などを行うために検知する。
さらに歩行者の検知も今は常識になりつつあり、アイサイトなどは自転車も対象に含まれる。ボルボなどはカンガルーを始めとする動物の検知も可能にした。
ただし、状況によって作動不能に陥ることがあるから注意が必要だ。
たとえばカメラ方式の代表とされるアイサイトの場合、人の視覚と同じように、対象物を2個のカメラがとらえる。従って濃霧の時などは検知するのが難しい。
カメラに前方から朝日や夕日が照射されていたり、夜間走行で対向車のハイビームを受けている時も同様だ。ドライバーにとって前方が見えにくい時は、同じ状況がアイサイトにも発生している。
雨天で先行車が水たまりを通過して、水しぶきが舞い上がったような時も検知が困難になる。運転していてドライバーが前方を見にくいと感じた時は、充分に注意せねばならない。
このほかカメラのレンズが収まるフロントウィンドウの上側が汚れている時も、対象物を検知しにくい。汚れたメガネを掛けていると、前方が見にくいのと同じだ。
カメラの設置された部分が際立った高温や低温になった時も、センサーの性能が下がる。
車線逸脱の警報機能については、車線の塗料が薄れている場所では作動しにくい。
なお、ダイハツの2個のカメラを使うスマートアシストIII(ミライースやタントに搭載)、日産の単眼カメラを使ったインテリジェントエマージェンシーブレーキ(ノート、セレナなどに搭載)など、ほかのカメラ方式にも同様のことが当てはまる。
【ケース2】対歩行者や狭い鉄橋で自動ブレーキが作動しない!?
緊急自動ブレーキを作動させるセンサーには、ミリ波レーダーや赤外線レーザーも使われる。
赤外線レーザーは、簡易型で照射範囲が短いから作動速度の上限も時速30km程度。いっぽう、ミリ波レーダーは遠方まで照射できるから、高速道路などでも使える。カメラと違って霧などに強いことがメリットだ。
その半面、対象物の反射を利用して、車両などの存在や自車との距離を検知するため、反射が生じにくい歩行者を把握するのは難しい。路上の車線はまったく検知できず、車線逸脱の警報機能も備えられない。
従って今では、ミリ波レーダーや赤外線レーザーだけを使うタイプは少数派になった。単眼カメラを組み合わせる複合型が多い。2種類のセンサーを備えることで、対象物を幅広く検知できるからだ。
ホンダセンシング、トヨタセーフティセンスC/Pなどが代表的なタイプになる(ただしトヨタセーフティセンスCは、カメラを組み合わせながら歩行者は検知できない)。
ミリ波レーダーが作動しなくなる可能性があるのは、狭い鉄橋などを通行する時だ。対象となる車両の周囲に電波を強く反射する構造物があると、検知するのが難しい。
また、ミリ波レーダーや赤外線レーザーを照射するユニットを収めたボディ先端の中央部分が汚れていると、適正に照射したり反射を検知しにくくなる場合がある。
センサーの種類を問わず、カーブになっている道の脇に看板や道路標識が設置されている場合も、位置関係によっては車両や障害物と誤認する。
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