残すはシビックのみとなった過激モデル ホンダにとってタイプRは本当に必要なのか?

残すはシビックのみとなった過激モデル ホンダにとってタイプRは本当に必要なのか?

 F1GPやインディーカーシリーズ(米)にエンジンを供給するホンダの市販車ラインアップから「タイプR」のロゴが消えている。

 現在タイプRが設定されているのは「シビックタイプR」のみ。フィットもフルモデルチェンジを機に「RS」さえもなくなってしまった。もちろんNSXにもタイプRは設定がない。

 続々と消えるホンダのスポーツグレード。今のホンダにタイプRは本当に必要なのか? 語っていきたい。

文/松田秀士
写真/HONDA

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■試乗で度肝を抜かれたタイプR! そのハンドリングは多くの人を魅了

 これまでホンダ車でタイプRが販売されたのは「NSX タイプR」「インテグラタイプR」「アコードタイプR」「シビックタイプR」だ。

 NSXタイプRを別にすれば、インテグラもアコードもシビックもいわゆる乗用車。もともとそれらのモデルにスポーツ色が強いということもあったが、モデル中最上位グレードとして数々のチューニングを施しスポーツ性能に特化した究極モデルという位置づけがタイプRだ。

現存する唯一のタイプRとなったシビックタイプR(FK8型)。2020年10月に新型(マイナーチェンジ)の登場が決定している

 これらの試乗会は主にサーキットや鷹栖プルービンググラウンド(北海道)などクローズドコースで開催された。そこで究極の性能を試しタイプRの走行性能に驚愕したものだ。

 特に2001年に発売された「インテグラタイプR(DC5型)」に試乗した時は非常に驚かされた。高速コーナーに160km/h以上の速度で何のためらいもなく飛び込めるなんて思いもしなかったからだ。

2001年発売のインテグラタイプR(DC5型)。異形ヘッドライトを採用した前期型、異形をやめてオーソドックスなヘッドライトデザインを採用した後期型がある

 欧州メーカーでいえばBMW M3やメルセデスAMGのような、ちょうど同じような位置づけとモデル全体のヒエラルキー構築を考えていたのだろう。タイプRの存在によってベースとなるほかの一般グレードへのブランド波及効果と高性能が印象付けられたといえる。

 例えば、2007年にデビューした「3代目シビックタイプR(FD2型)」は4ドアセダンだった。タイプRとしてはインテグラ4ドア(DB8型)以来6年ぶりとなる。ファミリーセダンにもタイプRを設定することで、若者だけでなく実用性とスポーツ性を兼ね備えたタイプRの創造を狙ったのだ。

2007年に登場したシビックタイプR(FD2型)。DB8型以来の4ドアセダンベースのタイプRだった
1995年に登場した、初代インテグラタイプR 4ドアハードトップ(DB8型)

 このあたりのコンセプトは、ある意味先に挙げた欧州スポーツセダンにも共通するコンセプトだ。しかし、実際に試乗すると大人4人がフル乗車しても驚くほどハードなサスペンションだった。それゆえ試乗会場となった鈴鹿サーキットではバツグンのハンドリングが誰をも魅了した。

 このようにシビックというモデルは、時には英国生産モデルだったり要所要所でタイプRをプランニングしてスポーツ性と実用性をアピールして高性能ぶりを販売につなげてきたモデルだった。

■ホンダらしさを主張するために求められるタイプRという存在

 しかし、時代は変わった。今、売れ線はSUV、そしてミニバン。これは世界的にもいえることで、ホンダの主戦場は北米である。一方、国内に目を向けると現在ホンダ車の売れ行きベストは疑う余地もない軽自動車だ。

「N-BOX」は競争倍率の高い軽自動車のなかでもダントツのヒットモデル。試乗してみると乗り心地や静粛性など、軽自動車とは思えないほどの高い偏差値を持っている。芋づる式にモデルチェンジした「N-WGN」はホンダセンシングの進化をいち早く取り入れ、より高い安全性能と快適性を有している。

 自動車会社はクルマをたくさん売ってナンボ? である。売らないことには話にならない。主戦場となる北米では「アコード」がヒットモデルだ。だとすればアコードにタイプRがあってもおかしくない。

外観に派手さはないが、そこが受けて人気モデルとなったアコード ユーロR。姉妹車「トルネオ」にも、外観以外は同スペックのトルネオユーロRを設定していた

 この場合、現行NSXのようにアメリカホンダが設計するのが妥当だろう。例えばGMのキャデラックにはCTシリーズのセダンがあるが、各モデル(4、5、6)ごとに「V」という究極のスポーツモデルが存在する。

 多分にドイツ御三家に影響されたキライはあるが、ならば北米アコードに設定されても不思議はない。かといって日本で同じことをやるかは別問題。事実、先日北米より2年遅れで導入された新型アコードはハイブリッドのみの1グレード販売。ここにタイプRを設定する意味はないのだ。もちろんSUVにもミニバンにも軽自動車にもタイプRを設定する意味はない。

 国産他メーカーに目を移そう。ちょうどホンダと似たような環境にあるのがスバルだ。スバルは「WRX STI」の生産を長らく搭載し続けてきたEJ20という高性能エンジンとともに生産を終了した。

 スバルはかたくなに開発を続ける水平対向エンジンがカリスマ性を持ち、さらに搭載するボディ性能がやはり北米で人気を得ている。しかしスバルの場合、国内に目を向けるとスバル車でなくてはならないファンが多い。

そのカリスマ性で多くのファンを魅了したWRX STI。2019年末に惜しまれつつ生産を終了した

 先進安全装備のアイサイトを開発するなど、航空機製造を起点としたしたメーカーならではの独自安全基準を持つ。スバルの場合、今後もWRX STIのような究極のスポーツグレードを販売し続ける意味はあるはずだ。そのようなモデルの存在による波及効果が認められるメーカーであるからだ。

 マツダはデザインという武器を持ち、どのメーカーもが成しえなかったロータリーエンジンという伝説がある。また最近ではガソリンで圧縮着火を実現したSPCCI(火花点火制御圧縮着火)エンジンを世に送り出した。

 もう一度ホンダに目を向けた時、日本国内では軽自動車以外で目につくのは「フィット」だろう。旧モデルのフィットにはスポーツグレードの「RS」が設定されていた。

 現行フィットは基本となるプラットフォームは旧モデルからそれほど大きく変わってはいない。つまりもう一度RSグレードを投入する意味はあるだろう。そこで比較対象となるのがトヨタ「ヤリス」だ。

先代モデルまで設定されていたフィットRS。現行型でもRSを求めるファンの声は多い
トヨタがWRC参戦のホモロゲーション獲得のために開発したホットモデルのGRヤリス

 かつてのランエボvsインプレッサのように、ライバルが存在してこそこのような究極スポーツは意味がある。かたやWRCを目指した車両だが、「GRヤリス」の発売がいい導火線になる。

 e:HEV 4WDの「フィットタイプR」を開発してもいいだろう。難しいならシビックタイプRの2.0Lターボを移植して4WDで勝負する。今、ホンダにあるカリスマ性はF1GPを戦うレッドブルホンダ。アメリカではインディカーだ。しかしこれは市販車に直結しない。

 SUVもいいだろう。ミニバンもいいだろう。軽自動車ももちろんいい。しかし、ホンダらしさは技術に裏付けられた圧倒的な性能。すでにアイルトン・セナを誰だか知らない世代が大勢いる。

 トヨタがGRに力を入れる狙いはスポーツブランドの構築だ。ホンダにはすでにタイプRがあるのだからこれを捨ててはならない。さらにいうと技術者は夢を求めて会社を選ぶのだから。

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