まさに宇宙のランクル!? トヨタの月面車「ルナ・クルーザー」の本気度

“ムーン・バギー”とは大違い!! トヨタとJAXAの月面車 驚異の性能

 最大の特徴は、乗員が宇宙服なしで活動できる与圧キャビンを備えていること。

 外寸は全長6m、全幅5・2m、全高3・8mで、内部居住空間は13立方メートル程度を確保。2名(緊急時は4名)の乗員が滞在可能で、なおかつ燃料電池をエネルギー源として、月面で1000km以上(!)の走行を可能にするとしている。

乗員が宇宙服なしで活動できる与圧キャビンを備え、乗員2名(緊急時4名)まで滞在可能である。さらに燃料電池をエネルギー源として、月面で1000km以上の走行が可能
乗員が宇宙服なしで活動できる与圧キャビンを備え、乗員2名(緊急時4名)まで滞在可能である。さらに燃料電池をエネルギー源として、月面で1000km以上の走行が可能

 アポロ計画で月に送り込まれた“ムーン・バギー”は質量わずか210kg。4輪のインホイールモーターの出力は合計で1馬力。121 A/hの銀-水酸化亜鉛カリウム一次電池による航続距離は92kmだった。

 それと比べると、ルナ・クルーザーのスペックたるや、まさにゴルフカートとマイクロバスくらいの差があると言っていい。

 真空の宇宙空間で気密を保つ構造を、信頼性を確保しながらギリギリの重量で造るのが有人宇宙船の難しいところ。それに車輪をつけてデコボコの月面を走らせようというのだから、耐久性/信頼性への要求はハンパなく厳しいものとなる。

ランドクルーザーから連想され、月面車の愛称「ルナ・クルーザー」という名前が決まった
ランドクルーザーから連想され、月面車の愛称「ルナ・クルーザー」という名前が決まった

 ルナ・クルーザーという名前は、もちろんランドクルーザーから連想したものだが、プレスリリースにもあるとおり、「ランドクルーザーが持つ『必ず生きて帰ってくる』という精神や、品質、耐久性、信頼性を月面という過酷な環境を走る有人与圧ローバにも引き継いでいきたいという想いを込めている」とのこと。

 「究極の信頼性/耐久性を目指す」という開発テーマに、両車あい通じるものがあるわけだ。

燃料電池をエネルギー源として走行するため、月面に存在する水分を、ソーラーパネルで作った電力で電気分解し、酸素と水素を作成する計画だという。ただし実証実験が必要となるだろう
燃料電池をエネルギー源として走行するため、月面に存在する水分を、ソーラーパネルで作った電力で電気分解し、酸素と水素を作成する計画だという。ただし実証実験が必要となるだろう

 それにしても、月面で1000kmの航続距離を確保するというのはものすごい話だ。概念図によると、月面に存在する水分を、ソーラーパネルで作った電力で電気分解して酸素と水素を作るとされているが、これはあくまでも「予定」。その前に、月面で水分を採集するプラントの実証試験が必要となるだろう。

近未来のクルマのブランド競争は宇宙空間が舞台になる!?

 あと10年足らずで本当にそんなスゴイ月面車ができるのか? もっと言えば、質量ざっくり10トンほどにもなる巨大なルナ・クルーザーを月面に送り込むロケットはどうするの? とか、知りたいことは山のようにある。

 とりわけ、運搬手段についてはトヨタとJAXAだけでなんとかなる問題ではなく、ISECGのプロジェクト進捗にかかっている。

 アポロを打ち上げたサターンV型のような化け物ロケットは一種のロストテクノロジーで、総重量約15トンだったアポロ月着陸船レベルの重量物を月まで運搬する手段は現在は存在しない。

 まぁ、技術的なハードルは数々あるだろうが、このルナ・クルーザー計画が夢いっぱいのわくわくプロジェクトであることは間違いないだろう。

 われわれクルマ好きは、自動車メーカーのブランド価値というとすぐモータースポーツ(≒パフォーマンス)を連想するが、自動車メーカーのブランド戦略という点でも、エンジニアの士気を高める目標という点でも、21世紀にふさわしい新しいテーマだと思う。

 ごく最近、テスラの株価時価総額がトヨタを超えたと話題になったが、テスラを率いるイーロン・マスクは同時にロケットベンチャーのスペースXの経営者でもある。

 内燃機関で走る自動車がモータースポーツで覇を競った時代が終わり、電気で走るクルマのブランド競争は宇宙空間が舞台になるのかもしれませんね。

【画像ギャラリー】JAXAと共同開発を進める月面車「LUNAR CRUISER(ルナ・クルーザー)」のイメージ写真をみる

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