名門クラウンの役割と展望 セダンは現行型で最後の証言入手!!

クラウンをSUVに変える理由とは?

 以上のようにクラウンに関しては、いろいろな情報が飛び交う。クラウンの売れ行きが下がったのは事実だ。

 現行クラウンの発売は2018年6月で、その年の9~10月には6000~7000台を登録していた。しかし2019年になると、9月は3806台、10月は1723台だ。

 さらに2020年は、コロナ禍の影響が若干残っていたとはいえ、9月が2050台、10月は2029台となっている。

 ちなみにフルモデルチェンジを受ける直前の2017年は、9月が2357台、10月は2288台であった。2020年9/10月の登録台数は、先代型のモデル末期よりも少ない。

 この失速状況が、クラウンをセダンからSUVに変える理由だ。過去を振り返ると、クラウンの売れ行きは、時間を経過するほど下がっていった。

1987年に発売した8代目クラウン。キャッチコピーは「いつかはクラウンに、その想い、今こそ…」
1987年に発売した8代目クラウン。キャッチコピーは「いつかはクラウンに、その想い、今こそ…」

 1990年には、クラウンの登録台数は、8代目が月平均で1万7100台に達していた。2020年度上半期(2020年4月から9月)に、小型/普通車の登録台数1位になったヤリス(ヤリスクロスを含む)が1か月平均で1万3200台だから、30年前のクラウンはさらに多く売れていた。

 2000年には、10代目クラウンがモデル末期ながら、1か月平均で8400台登録している。1990年に比べると半減したが、それでも2020年度上半期のアルファードよりも多く売られていた。

 2005年は「ゼロクラウン」と呼ばれた12代目クラウンが、月平均で6600台登録されている。2010年は、13代目の登録台数が月平均で3400台となった。5年間でさらに半減している。

2012年に誕生した14代目クラウン。ロイヤルシリーズとアスリートシリーズの2構成。キャッチコピーは「CROWN Re BORN」
2012年に誕生した14代目クラウン。ロイヤルシリーズとアスリートシリーズの2構成。キャッチコピーは「CROWN Re BORN」

 2015年は、14代目が月平均で3700台登録され、5年前に比べると少し持ち直した。14代目では新たに直列4気筒ハイブリッドを搭載して燃費を向上させ、購入時の税額も安いからだ。

 ここで販売下降が止まったように思われたが、2017年になると、1か月平均で2400台に下がってしまう。この後、2018年に15代目となる現行クラウンにフルモデルチェンジされた。

 現行クラウンの売れ行きは、先に述べた通り低迷している。登場した2018年には1か月平均で4200台が登録されたが、2020年の9/10月は、前述の通り2000台を少し超える程度だ。

クラウンの価値象徴する「一に需要家、二に販売店、三に製造家」の金言

 現行クラウンの売れ行きは、デザインやロイヤルサルーンの廃止、硬くなった乗り心地などクルマ造りの変更が裏目に出た結果といえるだろう。

 中高年齢層のユーザーは、若返りによるクルマ造りの変化を敬遠した。若いユーザーは、セダンというボディスタイルと伝統的な「クラウン」の車名に一種の抵抗を感じて、いまひとつ購入に踏み切れない。

2020年5月からのトヨタ全車種併売を開始した影響もあり、クラウンからアルファードへ乗り換えする顧客が増加した
2020年5月からのトヨタ全車種併売を開始した影響もあり、クラウンからアルファードへ乗り換えする顧客が増加した

 さらに直近では、2020年5月から、全国のトヨタの販売店でトヨタ全車を購入可能になった。従来アルファードやハリアーはトヨペット店のみが扱ったが、今は全店で買える。そのために人気車は売れ行きを急増させた。

 その半面、売りにくい車種は、さらに登録台数を下げてしまった。そのひとつがクラウンだ。2020年に入ると、すでにクラウンの売れ行きは下がり始めていたが、6月以降は下降が一層顕著になった。

 クラウンのユーザーがアルファードやハリアーを購入するには、以前は販売店を変える必要があったが、今はトヨタ店で乗り替えられるからだ。

 この点についてトヨタの商品企画担当者は「クラウンは、お客様、トヨタ店の皆様、トヨタ自動車が一緒になって育ててきたクルマだと思っている」とコメントしている。

 トヨタ店が専売車種としてユーザーを大切にしてきたから、長年にわたるクラウンの繁栄が築かれた。クラウンは販売系列の上に成り立つ商品であった。

1955年に誕生した初代クラウンから現代まで、クラウンの伝統が築かれてきた
1955年に誕生した初代クラウンから現代まで、クラウンの伝統が築かれてきた

 またトヨタ自動車販売の初代社長であった神谷正太郎氏は「一に需要家(ユーザー)、二に販売店(ディーラー)、三に製造家(メーカー)」と述べている。最も大切にすべきはユーザーで、次いで販売店、メーカーは3番目という考え方だ。

「クラウンは、お客様、トヨタ店の皆様、トヨタ自動車が一緒になって育ててきたクルマ」という先のコメントは、神谷正太郎氏の考え方に沿っている。

 これこそがブランドだ。トヨタの販売店では「最近まで新型クラウンが登場すると、車両を細かく確認しないで購入するお客様が多かった」とコメントしている。

 高額商品だから、いい加減な買い方をすることはない。メーカーのトヨタとクラウンという商品、販売店のトヨタ店とそのセールスマンに、絶大な信頼を置いているから実車を見ないで購入できる。

 このブランド力には、メルセデスベンツやBMWでは太刀打ちできない。従って日本ではレクサスを展開する必要はなかった。

 そしてクラウンのブランド力には、セダンであることが欠かせない。セダンは低重心で、後席とトランクスペースの間に隔壁があるから、ボディ剛性を高めやすい。つまり走行安定性と乗り心地、いい換えれば安全と快適が優れている。

 これを高重心のSUVに置き換えると、クラウンの価値が失われる。SUVは車内が広く、便利に使えて外観にも存在感が伴うが、走りの本質である安全と快適を突き詰めると、セダンには勝てないからだ。

現行型はTNGAに基づくGA-Lプラットフォームを採用し、2018年生産開始した
現行型はTNGAに基づくGA-Lプラットフォームを採用し、2018年生産開始した

 クラウンの長い伝統を考えると、セダンボディを諦めるのは早い。若返りに乗り出して、ほとんど時間を経過していないからだ。

 現行型でスポーティに振り過ぎた走りに、快適な乗り心地をプラスするなど、進化を図る余地は充分にある。

 先に述べた「クラウンにはセダンで頑張って欲しい」という販売店の気持ちを大切にして欲しい。販売店はユーザーの気持ちを代弁するから、それはクラウンを使う人達の願いでもある。今こそ神谷正太郎氏の言葉を思い出すべきだ。

【画像ギャラリー】11月に一部改良発表したクラウンと名門歴代車を一挙にみる

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