2020年11月、欧州でトヨタ「C-HR GRスポーツ」が発表されたが、日本仕様のGRスポーツのバンパーデザインとは異なり、標準仕様のバンパーを少しいじったくらいという、非常におとなしいものとなっている。
欧州では2016年に発売されたC-HRだが、2019年1~9月には10万6632台を売り上げ人気車となっている。最量販モデルの「ヤリス」(当時は「ヴィッツ」に相当)が同期で17万7538台だったことを考えるとかなり健闘していたといえるだろう。
そんなC-HRだが、国内事情に目をやると、強力なライバルが多数登場し話題を奪われてしまっている。「プレミオ/アリオン」の生産終了が確定し、伝統ある名門車「クラウン」にまで終了説が出てきた車種統合を進める今のトヨタにあって、このままでは次期型の開発はなく、1代限りでの消滅もあるのではないだろうか!?
かつては販売台数ランキングの上位だったC-HRは、なぜここまでの苦戦を強いられることとなったのか!? 厳しい現状と、C-HRを追い込んだその要因を考察していく。
文/渡辺陽一郎
写真/TOYOTA、編集部
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■趣味性の高いクルマの宿命か!? 厳しい状況追い込まれるC-HR
最近はSUVの売れ行きが好調だが、すべての車種が伸びているわけではない。SUVでありながら、思うように売れない車種もある。その代表がトヨタの「C-HR」だ。C-HRは全長が4.4m以下、全幅も1.8m以下に収まるコンパクトなSUVで、2016年12月に発売された。
今は前述のとおりSUVが人気のカテゴリーになり、コンパクトカーも好調に売れている。C-HRはこの2つの要素を併せ持ち、発売当初は売れ行きが伸びた。2017年上半期(1~6月)には、1カ月平均で約1万3200台が登録され、小型/普通車の登録台数ランキングでもトヨタ「プリウス」と日産「ノート」に次ぐ3位に入った。過去を振り返っても、SUVがここまで売れ行きを伸ばすことは珍しい。
ところが2018年に入ると、C-HRの人気に早くも陰りが見え始めた。2018年上半期の登録台数は1カ月平均で約6800台になり、前年同期の半数に減った。小型/普通車の登録台数順位も大幅に後退している。
2019年上半期になると、1カ月平均が約5400台で、対前年同期比はさらに20%減った。その結果、ライバル車のホンダ「ヴェゼル」に抜かれている。ヴェゼルの登場は2013年だから、C-HRの登場は3年ほど新しいのに、販売の下降が激しく順位が逆転した。
2020年上半期は、コロナ禍の影響で市場全体が大きく落ち込んだ。小型/普通車市場は、対前年比がマイナス19%だったが、C-HRは43%減っている。小型/普通車の平均を超える落ち込みとなった。
2020年9月まで、国内販売はマイナスが続いたが、10月に入ると小型/普通車、軽自動車ともに前年(2019年)よりも増えている。前年の10月には消費増税が行われ、クルマの売れ行きが対前年比で20%を超える落ち込みになったからだ。前年が減った影響で、2020年10月は、相対的にプラスに転じた。
またコロナ禍により、2020年4月から6月を中心に大幅に減った反動で、売れ行きが伸びた事情もある。このほかヤリス、フィット、ハリアーなど、2020年に登場した新型車の売れ行きも追い風になった。
C-HRも2020年10月には前年に比べて5%増えたが、同月の登録台数は約2700台でヴェゼルを下まわる。ランドクルーザー(プラドを含む)よりも少し多い程度だ。2017年上半期の1カ月平均約1万3200台に比べると、今のC-HRの売れ行きは約20%に留まる。約3年間で急落した。
C-HRの売れ行きが大幅に減った背景には、複数の理由がある。まずC-HRの商品特性だ。外観のデザインは、2014年から2016年にかけて、パリ/フランクフルト/ジュネーブのモーターショーに出展されたコンセプトカーとほぼ同じだ。きわめて個性が強く、人目を引き付け、発売から1カ月後の受注台数は4万8000台に達した。現時点で絶好調に売れているトヨタライズの3万2000台、トヨタRAV4の2万4000台を大きく上まわった。
このように発売直後の売れ行きを過剰に増やした車種は、概して高い人気を保ちにくい。好調に売れる主な理由が、実用性ではなく前述の外観にあるからだ。魅力を感じるのも、主にクルマ好きのユーザーで、愛車の車検期間が十分に残っていても即座に乗り替える。
そのために発売直後には売れ行きが急増するが、欲しい人達に行き渡るのも早く、需要が早期に失速する。このような売れ方をする車種は、最近は減ったが、趣味性の強いスポーツカーが好調に売れた時代には多く見られた。
例えばトヨタ「86」は、2012年2月の発表から1カ月で7000台を受注して、同年10月までは1カ月当たり2000~3000台を登録していた。しかし2013年に入ると、早くも800~1000台程度に下がっている。2019年の平均は約390台だ。
逆に軽自動車やコンパクトカーといった実用重視の車種は、クルマ好きの比率が低い。新型車が登場しても即座に買わず、愛車の車検期間が近付いた頃に乗り替える。出費を抑えた買い方をするわけだ。このような車種は、発売直後に売れ行きが急増するとは限らないが、商品力が高ければ安定して長く売れ続ける。
トヨタのSUVであれば、「ライズ」がこのタイプだ。発売後1カ月の受注台数はC-HRに比べて1万6000台少なかったが、その後の売れ行きは低下しない。2020年10月も1万3256台を登録して、小型/普通車の1位になった。統計上は2位だが、ヤリスの数値には「ヤリスクロス」も含まれ、一般的な認識に沿ってこの台数を差し引くとライズが1位になる。
C-HRはライズに比べてボディが大きく、特に後方視界も劣悪だから運転しにくい。前後席の広さや荷室容量に大差はなく、C-HRは価格も高い。デザインで売れるクルマだから、購入希望者に行き渡るのも早く、需要が続きにくかった。
ふたつ目の理由は、C-HRの後にトヨタの新型SUVが続々と登場したことだ。2019年4月に「RAV4」、同年11月に「ライズ」、2020年6月には「ハリアー」、同年8月は「ヤリスクロス」と続く。
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