夜に信号待ちをしているときにヘッドライトを消す、いわゆる「思いやりライト」。周りのクルマに配慮した運転をしているかたは、実践しておられることでしょう。
信号で先頭になった場合だけでなく、2列目以降でも、近年は、明るいLEDライトの普及もあって、ルームミラーに映る後続車のライトが眩しく感じることが多くなっています。特に、最近流行りのSUVは車高が高いためにライトの位置も高く、ライトを消して前走車に配慮するかたも多いようです。
このように、昨今マナーとして定着しつつあるように感じる思いやりライトですが、ライトを消すことによるリスクもあります。今回は、「夜間の信号待ちで、ヘッドライトは消すべきか、つけておくべきか」について、考えてみたいと思います。
文:吉川賢一
写真:TOYOTA、HONDA、SUBARU、Peugeot、ベストカーWEB編集部
マナーと法規を混同してはならない
道路交通法では、「車両等は、夜間、道路にあるときは、政令で定めるところにより、前照灯、車幅灯、尾灯その他の灯火をつけなければならない(第五十二条)」とされており、原則として、夜間の信号待ちであっても、ヘッドライトを点灯させることが義務付けされています。
また、国土交通省が定める「道路運送車両の保安基準」において、ロービームの正式名称は「すれ違い用前照灯」、ハイビームは「走行用前照灯」。使用方法についても言及されており、「対向車や前走車が存在する場合にはロービームを使用すること」とされています。
つまり、信号待ちであっても、ヘッドライトは点灯させておかなければならない、というのが法規であり、信号待ちでヘッドライトを消す「思いやりライト」は、あくまでマナー(気遣い)です。
「マナー」のために「法規」を破ってしまう可能性も
しかしながら、平坦な交差点ならばまだしも、起伏がある交差点での信号待ちでは、対向車や後続車のヘッドライトは眩しいもの。再点灯さえ忘れなければ、消すのが「配慮」というものですが、しかし再点灯を忘れるのが、人間です。
ヘッドライトを手動でオフしたのを忘れて再発進してしまうと、法令違反となるばかりでなく、対向車や右折待ち車、さらには歩道を渡る歩行者や自転車などを惑わせ、危険な目に遭わせてしまうリスクも。
また、対向車や前走車、右左折してくる車両に(暗い夜間でも)自車位置をよりはっきりと知らせるため、点けておくべきだと筆者は考えます。
近年は、オートハイビーム(自動切換型前照灯)のほか、高級車には「(通称)アダプティブヘッドライト(ADB:Adaptive Driving Beam System)」と呼ばれる、瞬時にハイビームの照射位置や角度を、自動可変する装備が搭載されるようになりました。
周囲のクルマの位置を把握するセンサーが搭載されてきたことによって、このような、これまではやれなかった、安全性を高める制御が可能となってきています。
この流れを考えれば、もしかしたら、停止中かつアイドリングオフ時には、ロービームの光量を半分程度にするような、「自動で働く思いやりヘッドライト」が近いうちに開発されてくる可能性も大いにある、と考えられます。
コメント
コメントの使い方法第52条を見てみると、「政令で定めるところにより」という文言があります。
政令である道路交通法施行令のうち第18条が該当します。
信号待ちは法第2条第1項第19号により法律上「停車」なので、令第18条第2項が適用されます。
ここには「非常点滅表示灯又は尾灯をつけなければならない」とされていて、前照灯は記載がありません。
つまり、法律上、信号待ちでは前照灯の灯火義務はありません。