自動車の技術は日進月歩、姿かたちはあまり進化していないように見えても、中身は長足の進歩を遂げている…なんていう技術もたくさんある。
そのなかでも特に安全や燃費に大きく関わる技術で、しかも(自動車専門メディアでも)それほど取り上げられることがないものがある。回生ブレーキだ。
クルマは走って、曲がって、止まるもの。その三大要素のうちのひとつで「エネルギーを回収できる」というすごい発明なのだが、「そのうまい使い方」や「仕組み」について詳しい人というのは(恩恵や技術進化の度合いに比べて)少ない。
回生ブレーキは、EV、ハイブリッドカー、(数少ないがいくつかある)エンジン車のうち「回生機能」が付いているクルマで、アクセルオフ、ブレーキをかけると作動する。
本企画ではそんな回生ブレーキの仕組みと、やや誤解されがちな「上手な使い方」について解説していただいた。
文/諸星陽一、写真/TOYOTA、NISSAN、HONDA、SUZUKI、MAZDA、平野学、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】少数派で貴重な存在 モーターを搭載しないエンジン車で回生機能を持ったクルマたち
普通のブレーキはエネルギーを捨てるだけ
EVでもアクセルペダルを戻すとエンジン車のエンジンブレーキが効いたときのように速度が下がりますが、このときのブレーキはエンジンブレーキではなく(そもそも、エンジンが存在していません)回生ブレーキというシステムが働きます。
回生ブレーキというのは、クルマが走っているという運動エネルギーを発電機で電気エネルギーに変換してバッテリーに貯めるシステムです。エンジンとモーターで構成されるハイブリッド車でも同様に回生ブレーキが動作します。
回生ブレーキを理解するために、まずは普通のブレーキ(フットブレーキ)のことを考えてみましょう。
普通のブレーキはディスクやドラムで摩擦を発生させると同時に、タイヤの速度を制限して車体の速度よりも低くすることで抵抗を発生させて速度を落とします。
普通のブレーキ、エンジンブレーキともに多くは運動エネルギーを熱エネルギーに変換して大気中に捨てることで速度を落としています。
純粋なガソリンエンジン車のエネルギーフローは次のようなものです。
ガソリンタンクからエンジンに運ばれたガソリンは空気と混合され、点火プラグの火花で燃焼しピストンを押し下げます。その力がミッション、ホイール、タイヤと伝わりクルマを走らせます。
いっぽう、速度を落とすときはその力を熱に変換して捨てているわけです。純粋なエンジン車で速度を落とすためには、エネルギーを捨てるしか方法がありません。
回生ブレーキはエネルギーを回収
EVのエネルギーフローは、走行用バッテリーからモーターに電気が供給されモーターの回転力がタイヤに伝わりクルマを走らせます。
もちろん、ブレーキを踏めばディスクやドラムで摩擦が起きて運動エネルギーを熱エネルギーに変換します(実際はブレーキペダル操作により回生ブレーキが強く働くようにセッティングされている)が、アクセルペダルを戻した場合は回生ブレーキが働くのが通常です。
ハイブリッド車の場合はガソリンエンジン車と同様のエンジンフローですが、エンジンとタイヤの間にモーターが介在していてEVと同じように回生ブレーキが働きます。
ここで重要なのは、ガソリンエンジン車では減速時に捨てるだけだった運動エネルギーをEVやハイブリッドでは電気エネルギーに変換して回収している(これが回生ブレーキ)という点です。
ハイブリッドの燃費がいいのはこの回生ブレーキのおかげなのです。なので、回生ブレーキを使わないのはもったいない、回生ブレーキを使って走ってこそEVやハイブリッドの利点を活かせるのです。
また、EVやハイブリッド車でなくても回生ブレーキを組み込むことで、12Vバッテリーに電気エネルギーとして蓄積、アイドリングストップ時の再始動での電力不足などを補うことができます。
回生量の多いペダル操作が高効率のキモ
回生ブレーキを効率よく使うのと上手に使うのとではちょっと違います。
まずは回生ブレーキを効率よく使う方法です。
回生ブレーキを効率よく使うには上手にペダル操作をすることが大切です。前述のようにフットブレーキを踏むことで回生ブレーキも積極的に介入するようになってきているので、エネルギーフローメーーターなどを確認して、回生量の多いペダル操作をすることが大切というわけです。
フットブレーキを使うと、運動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換されてしまうため効率が落ちそうですが、そうならないようにクルマ側でセッティングが行われています。
とは言っても、すべての運動エネルギーが電気エネルギーに変換されるわけではなく、各部の摩擦抵抗や空気抵抗によって熱エネルギーなどとなって大気開放されているものもあります。
クルマが持っているエネルギーは運動エネルギーだけでなく、位置エネルギーもあります。例えば箱根ターンパークを頂上の大観山まで登ればおよそ1000mぶんの位置エネルギーを蓄えたことになります。登りでそれに匹敵するエネルギーを使って蓄えています。
ここから下る場合は、回生ブレーキを上手に使って位置エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリーに回収することが可能となります。
もちろん、この位置エネルギーもすべてを回収できるわけではありませんが、エンジン車では捨てるしかないものです。
上手く使うには回生の強さを要調整
こうした使い方が回生ブレーキを効率よく使う方法ですが、上手に使うというのはちょっと違います。
自分が回生したいエネルギーを効率よく手に入れるために、赤信号のはるか手前からゆっくりと減速したりすると周囲の交通のペースを乱すことになります。
回生ブレーキを上手に使うためには周囲の交通の流れに乗りながら、エネルギーを回収、減速していくことです。回生ブレーキの強さを調整できる車種では強さを調整しながら減速するといいでしょう()。
また強さ調整ができない場合でも走行モードを変更することで回生ブレーキの強さを調整できます。
現在のEVやハイブリッドは回生ブレーキであっても減速Gが一定以上になるとブレーキランプが点灯する仕組みなので、フットブレーキを使わないでも安全に減速ができます。
【編集部註】
EVやハイブリッドカーではシフトにBポジションを備えているクルマがありますが、Bポジション(通称ブレーキモード)に入れて走行することで、回生能力が高まります。
また、電気自動車のリーフ、ホンダe、日産のe-POWER搭載車はワンペダルドライブが可能で、自在に加減速できると同時に効率よく回生することもできます。
フットブレーキだけでなく、こうした機能を組み合わせて減速することで、回生効率が上がり、かつスムーズに走ることができます。
満充電時の回生ブレーキ
EVでは使ったエネルギー以上に回生するということはありません。なので、EVの場合は回生ブレーキで充電できないということはないのです。
ただし、例外的には山の頂上で充電して、そこから下ってくるというようなときには起こるかも知れません。
高地の宿などに宿泊する際に帰りは下り中心というような状況なら、充電設備があっても必要以上に充電する必要はありません。ハイブリッドやプラグインハイブリッドは、乗り方によっては山の頂上に着いたときにたっぷり充電されているということもあります。
例えばチャージモードのまま走ったりするとこういう状態になります。EVやハイブリッドでバッテリーが満充電の状態で、回生ブレーキを使ってももう充電することはできません。
このため、充電できなかった電気エネルギーは熱に変換して大気に捨てないとなりません。
これは非常に効率が悪いことなので、できれば避けたいものです。そのためにもドライブ計画を立てることは大切なこととなります。