ライバル不在? エルグランドと比べてみると?
日産のLクラスミニバンのエルグランドが2020年10月12日にフロントマスクを大幅に変更するビッグマイナーチェンジを受けた。
2010年のデビューだから、10年目での初の大幅テコ入れだ。フロントマスクは刷新されて存在感を強め、2台先を走る車両も検知可能な前方衝突予測警報など、安全装備も充実させた。
しかし、e-POWERを含めてハイブリッドは用意されず、運転支援機能も古く、プロパイロットも設定されない。
車内に入ると、1/2列目シートは快適だが、3列目はLサイズミニバンなのに膝の持ち上がる座り方で窮屈だ。3列目は背もたれを前側に倒して格納する方式だから、荷室の床が畳んだシートの厚みで持ち上がり、自転車などの大きな荷物を積みにくい。居住性や積載性とメカニズムの両方に不満が残る。
エルグランドの販売台数を見ると、マイチェン直後の10月(10月12日発売)は387台(対前年同月比145.5%)、11月が375台(対前年同月比109.0%)と若干伸びたものの、12月433台(対前年同月比73.6%)とマイナーチェンジ効果が出ていない。やはりe-POWERやプロパイロットなしでは厳しい。
2020年11月にマイナーチェンジしたオデッセイは?
2020年11月6日、ホンダは上級ミニバン「オデッセイ」のマイナーチェンジを発表、同日より発売を開始した。現行型5代目のオデッセイとしては、2017年以来、3年ぶり2度目のマイナーチェンジとなる。
オデッセイは商品力が高い。低床設計により、スライドドア部分の床面地上高を約350mmに抑えた。アルファードは435mmだからオデッセイは85mm低い。アルファードではサイドステップ(小さな階段)を使って乗り降りするが、オデッセイならその必要はなく、乗降性も優れている。
車内に入ると3列目シートの床と座面の間隔が十分に確保され、広さではアルファードが勝るが、3列目の着座姿勢と座り心地はオデッセイが優れている。多人数で乗車した時も、オデッセイの方が快適だ。
そしてオデッセイは低床設計だから、1300mmの室内高を確保しながら、全高を1695mmに抑えた。アルファードに比べて重心が低く、走行安定性も優れる。ミニバンにありがちな腰高感も意識させず、ボディが左右に振られにくいから、乗り心地にも良い効果をもたらした。
このようにオデッセイは、機能を総合的に判断すると、アルファードよりも優れた部分が多い。
それなのに2020年の登録台数は、1ヵ月平均で1200台少々だ。2020年11月が1720台、12月が1140台で、対前年比同月比はぞれぞれ213.4%、127.7%と少しはマイナーチェンジ効果はあったにせよ、売れ行きはアルファードに比べると約10分の1規模だ。
オデッセイが売れない理由は複数ある。
まず外観の存在感がアルファードよりも乏しいことだ。オデッセイは床と天井が低いから、低重心になって安定性が良い。ボディは軽くなって空気抵抗も減るから、動力性能や燃費にも良い影響を与えて乗降性も向上するが、販売面で有利とはいえない。
外観の立派さを演出しにくく、車内に入った時の見晴らし感覚も薄れるからだ。
アルファードは現行型でプラットフォームを刷新したから、床と天井を下げることも可能だったが、敢えて先代型と同様のレイアウトを採用した。オデッセイのように機能的な価値を追求するより、情緒に訴えたほうがたくさん売れるからだ。
この理屈よりもユーザーの本音を大切にするクルマ造りは、昔はトヨタの得意な戦略だった。最近のトヨタ車は、海外向けが増えたこともあってこのようなクルマ造りがあまり見られなくなったが、アルファードには息付いている。
そしてエルグランドが大幅改良をあまり行わなかったり、オデッセイが優れた商品なのに好調に売れない背景には、かつての販売系列を撤廃した弊害もある。
前述の通り全店が全車を扱うと人気車は売れ行きを伸ばし、そうでない車種は低迷する。エルグランドやオデッセイは後者になり、メーカーも販売にあまり力を入れない。
特にホンダの場合、N-BOX+N-WGN+フィット+フリードの販売台数を合計すると、2020年に国内で売られたホンダ車の69%に達する。
オデッセイ、ステップワゴン、ヴェゼルなどは、残りの31%に含まれてしまう。軽自動車やコンパクトな車種が売れ行きを伸ばした結果、ホンダのブランドイメージまで小さなクルマに偏り、オデッセイなどが優れた商品に仕上がっても売りにくくなった。
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