■なぜトヨタはやらないのに日産はe-POWERでワンペダルを採用?
では、なぜ、HVが増えた今日、日産だけがワンペダル操作を特徴づけているのか?
たとえばトヨタのRAV4 PHVを試乗した際、電気駆動系の技術者に、トヨタのハイブリッドシステムではワンペダル操作は不可能なのか質問すると、可能であるとの返答だった。しかし、採用していない。
日産が、e-POWERを導入する際にワンペダル操作を機能のひとつとして採り入れた背景にあるのは、2010年にEVのリーフを市販したからだろう。
このとき日産は、EVの特性を徹底的に研究し尽くした。そこから、ワンペダル操作の着想も浮かび、実用化し、市販したといえる。これを、HVのe-POWERへも応用したのだ。
トヨタや他のメーカーのHVは、エンジン車を基準に燃費改善を目的として仕立てている。
そこからPHEVへ発展させても、発想の原点はエンジン車の燃費改善だから、ワンペダルの発想は生まれない。気づかないのだ。また、アクセル操作の仕方によっては、運転しにくさを覚えさせると考えているのかもしれない。
しかし、ワンペダル操作は難しくはない。単に慣れの問題だ。そのうえで、ペダル踏み替えの運転操作が減って、運転が楽になるだけでない、それ以上の効果を期待できる。そこを、次に話そう。
■ワンペダルのメリット「踏みかえは7割減」
まず運転が楽になるという基本から、ワンペダル操作による運転操作が減ることについて日産は、アクセルとブレーキの踏み替えが7割減るとしている。さらに上手に活用する人なら、9割も減らせられるとの見解もある。
理由は、日産のワンペダル操作は、発進~加速~巡行~減速~停止まで、クルマの走行のすべての領域でアクセル操作だけで済ませられるようにしている。停車まで利用するには、アクセルペダルの戻し方と、それに関連する回生による減速度から、停止線までの距離を目測できなければならない。
しかし、私が助手席に同乗して体験した人は、一度距離感を助言すると、次から自分の目測でほぼ停止線に止められるようになった。
それでも、もし、停止線の手前で止まってしまいそうになったら、再びアクセルペダルを少し踏んで前進させればよい。そして再びアクセルを戻せば、停止線に合わせて停車できる。
逆に、もし行き過ぎそうになったら、ブレーキペダルへ踏み替えればいいだけだ。それも、かなり速度が落ちた状態からになるはずであるから、慌てる必要はない。
近年、交通事故で取り上げられる高齢者のペダル踏み間違い事故も、ワンペダルを活用すれば、踏み替えの機会自体が大幅に減るのだから、誘発する可能性を下げられるだろう。
■「安全」にも寄与するワンペダル
あわせて、緊急事態で急停止しなければならないとき、ワンペダル操作では、急にアクセルペダルを戻した際には、強く回生が働き、急減速する。たとえばエンジン車で、1速ギアのときに、発進したあと急にアクセルを戻したときのエンジンブレーキのような急減速だ。
「危ない!」と、思って、アクセルを戻したとき、グッと減速度が掛かるのと、そのままの速度でスゥ~ッと進んでしまうのとでは、人間の心理にも違いが出るのではないかと私は考えている。
回生で急減速しはじめ、止まれるかもしれないと思えば、人は落ち着いてブレーキペダルへ確実に踏み替えられるのではないか。
逆にスゥ~ッと進んでしまえば、止まれないかもしれないとの思いから、なおさら慌ててブレーキペダルを踏もうとして、かえって踏み損なったり、踏み間違えたりするのではないだろうか。
ワンペダル操作は、緊急時の心理にも効果があると期待している。
そのうえで、ペダル踏み替えでは、必ず空走時間というのがある。ペダルを踏み替える間は、アクセルもブレーキも、どちらのペダルも操作していないのであり、その間もクルマは走り続けている。空走時間は、0.7秒とされているが、運転技量や体力にもよるだろう、およそ1秒と考えておくといいのではないか。
たとえば時速20kmというような低速でも、ペダルを踏み替える1秒間に5.5m進んでしまう。高速道路を時速100kmで走っていたら、27m以上進んでしまうのだ。この間は、運転者は速度調節を何もできない。
ところが、ワンペダルで回生を使えば、ペダルを踏み替えている空走時間にも、減速しはじめる。たとえわずかな速度であったとしても、その速度低下が、最終的に衝突を免れたり、衝突したとしても衝撃を小さくしたりすることにつながるはずだ。
クルマの電動化と、モーター特性をよく理解したうえでのワンペダル操作は、環境対応だけでなく安全対策にも効果を発揮する可能性を秘めている。それによって、交通事故被害者を減らせられれば何よりだ。
ワンペダル操作の価値を充分理解し、その可能性を広く探るには、EVを市販し、モーター駆動の本質を深く見極める必要があると私は考えている。だから、自動車メーカー各社には、一刻も早くEVを市販してほしいのである。燃費改善だけの目を向けたHV開発では、新たな可能性に気づけないからだ。
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