■セールスマンにも働き方改革の波が
腫れ物に触るように接触しなければならない新人セールスマンが目立ってきたころ、新車販売業界にも“働き方改革”の波が押し寄せてきた。
業界事情通は「自浄作用というよりは、外的圧力が強かったようです。聞いた話では新人セールスマンの親御さんが労基署(労働基準監督署)へ、『うちの子どもは毎日帰宅が遅い』と通報が入り、労基署が当該ディーラーに査察に入り、労基署の指導の下労働環境が是正されたところもあると聞きます」とのこと。
そのため新型コロナウイルス感染拡大前から、多くのディーラーでは遅くとも夜7時半には店を閉めるところが大半となった。もちろん夜間訪問(夜間に購入見込み客宅を訪問すること)も全面禁止になったそうだ(※緊急事態宣言発出中の地域では、時短営業が行われているケースあり)。
ただ、労働環境の是正はセールスマンにとっても歓迎すべき話でもあるのだが、販促活動に費やせる時間も同時に減ることとなった。
「働き手が少なく、多くの店舗ではスタッフ数が十分ではないなか営業しています。そのため昔のように好き勝手に出かけることができなくなりました。
また週休2日が徹底されていますので、週のうち1日は半数出勤どころかセールスマンはひとりだけといった状態で営業することもあります。そのような日は休んでいるスタッフのお客様へも対応しなければならないので、自分が新車を売るためにお客様とアポイントを取ることはできません」(前出セールスマン)。
バブル経済と呼ばれていたころは、空前の新車販売台数となっていたこともあり、とにかくセールスマンが出勤すればするだけ新車が売れたので、1カ月連続出勤なども珍しくなく、有給休暇などはとることはできず、買い上げていたディーラーもあったとのこと。
営業スタイルは訪問活動、しかも購入見込み客宅を訪れる夜間商談がメインだったので、毎晩のように帰宅が午後10時や真夜中近くになっていた。新車がまさに“飛ぶように”売れていた時代なので、いまとは市場環境はかなり異なるのだが、当時に比べれば、新車販売のセールスマンも“まともな仕事”になった。
ベテランセールスマンに昔と比べ就労環境が変わっていることを聞くと、「季節によっては日没前に帰宅できますし、子どもの運動会などがあれば週末も休めるし、有給も会社から一定日数を『必ず取得しろ』といわれるようになったので、いまのほうが不満は少ないです」とのことであった。
■販促活動はより効率的に
労働環境の改善は、それと同時に雑務も増えてきており、新車の販売活動に費やせる時間の大幅削減にもつながった。「いまみたいな働き方になったころは、とにかく新車の販売促進活動に費やせる時間が少なくなったのには困りました」(前出セールスマン)。
そこで前述した、店頭で点検待ちしているお客へのアプローチなど、セールスマンも効率的な新車販売を行うようになったのだ。
「何回も商談を重ね、それでも受注につながらないと、所長に注意されるだけでなく人事考課にも影響します。ですから短期間で結論が出そうなお客ほど、値引きも拡大しやすいのが現状です」(前出事情通)。
セールスマンへの評価も単純に販売台数だけ上積みすればよいというわけではない。
「台数を売るだけでなく、“粗利”もしっかり評価されるのがいまどきです。値引きを抑えるだけでなく、軽自動車やコンパクトカーなど利幅の薄いクルマばかり売るセールスマンより、高収益車種もバランスよく売るセールスマンのほうが評価は高いのです」(前出事情通)。
歩合給の高かった大昔に比べれば、基本給の比率が高く、セールスマージンは減ったともいわれているが、販売現場で聞くと前述したようにバランスよく新車を販売し、同時にローンの斡旋などによる、新車販売以外のマージンも積極的に加えると不満のないレベルの収入になっているとのことである。
ちなみに新型コロナウイルス感染の収束がなかなか見えないなかでも新車販売は好調に推移しており、昨年後半あたりからはフリーの来店客も目立つようになった。2020年の年間販売台数では、新人セールスマンでも30台前後を販売したというケースもあると事情通氏は話してくれた。
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