■iQ/2008-2016
革新的なトヨタ車として、2008年に発売されたiQも記憶に残る。独自のトランスミッションにより、前輪駆動車ながらもフロントオーバーハング(ボディが前輪よりも前側に張り出した部分)を短く抑えた。
この構造により、狭いながらも後席を備えた4人乗りの3ドアハッチバックでありながら、全長は2985mm、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)も2000mmと短い。最小回転半径は3.9mで、小回りの利きも抜群だ。
類似したクルマには、1997年に欧州で登場したスマートがあったが、エンジンを後部に搭載する2人乗りだ。荷室もきわめて小さい。その点でiQは4人乗りだから、後席の背もたれを倒すと荷室を拡大できる。全長が3m以下の短いボディと実用性を両立させた。
外観とレイアウトは独創的でトヨタらしくないが、使いやすい車内の造りにはトヨタらしさを感じた。
なおボディが極端に小さいこともあり、iQはエアバッグを9個装着する。運転席と助手席に加えて、左右席にサイド/カーテンエアバッグも備わる。
さらに運転席のニーエアバッグ、助手席には衝突時に座面の前側を持ち上げて乗員を固定させるシートクッションエアバッグも採用した。世界初とされる後面衝突に備えたリアウインドウカーテンエアバッグも装着されていた。
これらを装着したこともあり、発売時の価格は、最も安価な「100X」でも140万円と高めだった。売れ行きはいま一歩だったが、工夫の詰まった先進的なクルマであった。
■WiLLシリーズ
トヨタ、アサヒビール、花王、近畿日本ツーリスト、松下電器産業(現在のパナソニック)は、1999年に異業種合同プロジェクトの「WiLL」を立ち上げた。アサヒビールは「WiLLスムースビア」、花王は「WiLLクリアミスト」、松下電器産業は[WiLL・PC」という具合に各社が「WiLL」を冠した商品をそろえた。
トヨタはまず2000年にWiLL・Viを投入している。「かぼちゃの馬車」からイメージしたコンパクトなセダンボディは、横方向から見ると円弧を描くようにデザインされている。
リアウインドウは、通常とは逆向きに傾斜させ、後席は狭いが外観を個性的に仕上げた。キャンバストップも用意している。プラットフォームは初代ヴィッツと共通だ。
2001年にはWiLL・VSを投入した。外観はサイドウインドウの下端を後ろに向けて大きく持ち上げた。後方視界は悪いが、外観は戦闘機のように精悍だ。インパネも航空機をモチーフにしたもので、メーターはレーダー、ATレバーはスロットルレバー風の形状になる。
プラットフォームはカローラと共通だが、エンジンは直列4気筒1.8Lだから、スポーティな運転感覚を特徴としていた。
2002年にはWiLLサイファを投入した。プラットフォームはViと同じく初代ヴィッツと共通化され、丸みのある外観が個性的だ。通信機能に力を入れ、20年近く前のクルマなのに、ネットワーク接続を可能にした。
この機能を使ってWiLLサイファは「P-way/走行距離課金型リース」を実施した。代表的なコースだと、月々のリース料金(税金なども含む)は5500円で、1km当たり45円を課金する方法だった。
ただし、この設定だと、5年コースでもリース料金はわずか33万円だ。使われ方が1日当たり5kmの通勤や買い物だった場合、5年間/1825日でも9125kmに過ぎない。走行課金は約41万円だから、リース料金を加えても、5年間に税金まで含めて74万円しか払ってもらえない。
また1km:45円では、片道100km/往復200kmのドライブに出かけると、それだけで9000円取られてしまう。そこにガソリン代などは含まれないから、安いレンタカーよりも割高になる。つまりリース料金が安すぎて、走行距離課金額は高すぎた。
その結果、利用者はWiLLサイファの使用を控えるようになり、しかもトヨタカローラ店やトヨタビスタ店(現在のネッツトヨタ店)は「走行距離が短い人ほどオトク!」と宣伝を始めた。その結果、P-wayは短期間で終了している。
トヨタらしくないクルマに加えて、トヨタらしくないサービスの失敗まで見受けられた。
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