■【2】EV推進は中国の覇権拡大と国策に振り回されることになる⁉
バッテリーだけではない。EV拡大に積極的なのが中国だが、この背景には中国の国策の手が打たれている。
パリ協定の問題点は「CO2の排出量を売買できる」ことにある。中国が経済拡大戦略で推し進めている『一帯一路』。これがポイントで、中国と欧州を繋ぐ「中央アジアをヨーロッパに貫く陸上物流網」と、「東南アジアや北アフリカまでも含めた海上物流網」を構築するもので、現代のシルクロードなどと言われている。
このために中国は、関連した経済的に厳しい後進諸国に多額の経済融資を投入して道路、港湾などインフラ整備をしている。
中国は投入した融資の返済が滞る場合、港の管理権を手にして海軍の寄港地とするなど各種利権での返済を求めている。その利権のなかにはCO2排出量の取引も予想される。一帯一路融資の返済が滞る国のCO2排出権を中国が代償として求めることも可能なのだ。
これにより、中国のCO2排出量には余裕ができる。つまり、バッテリーなどの製造時や充電用の電力を、先進国より1.6倍も多くCO2を排出する石炭火力発電所で作っても、手に入る「CO2枠」で対応できてしまう。将来のための後進国の枠取りを、今使ってしまうことにもなる。
EVを中心としたZEV推進の目的は、地球全体のCO2排出量を削減すること。しかし、CO2排出権の取引システムを使った経済の覇権争いや、原発を数多く持つ国の産業対抗政策化など、本来の目的と異なる政治的な道具に使われすぎている。このことを忘れてはならない。
■【3】日本国内での電動化にはインフラが追いついてない
そして最後の問題点は日本国内での電力供給インフラだ。現状でも「冬の暖房や夏の冷房での電力不足」が叫ばれている。
現在、日本国内には乗用車だけでも約6200万台の自動車がある。このうちマイルドも含めたハイブリッド車は約930万台で、EVは11万7000万台あまり。EVの占める比率はわずか0.19%に過ぎない。
EVが走行するための電力消費量は莫大だ。自動車メーカーはV to Hなどと言って、災害時などにEVのバッテリーが家庭の電力に供給できることを謳っており、リーフ1台で一般的な家庭の電力4~5日分を賄えるとしている。逆の視点から言えば、リーフが東京~名古屋の片道300km程度走るためには、一般家庭で4日分の電力が必要ということ。総務省統計局のデータによれば3~4人世帯の電力消費量は平均すると13kWh程度なので、40kWhのバッテリーを搭載するリーフなら3日分、62kWh仕様だったら4.8日分に相当する。
資源エネルギー庁の試算によれば、2030年にはEVとPHEV合わせて964万台になるとみている。おおよそ国内乗用車の15%が電動車になるということである。
毎日全車がフル充電することはないだろうから、仮にバッテリー稼働率を30%としよう。2030年時点の電動車のバッテリー容量平均値を50kWhとして、毎日15kWhが消費されるとしたら、1億4460万kWhだ。実に1112万世帯分の電力消費量を電動車が毎日使うことになるわけだ。日本の世帯数は5097万1519世帯(2020年1月1日現在:総務省データ)。つまり、電力消費量的には国内世帯数が約1.2倍に増えることになるということだ。
この増加分を賄える電力インフラは整備できるのだろうか? 現在の国内事情を考えれば原発増設は現実的ではない。水力発電は10%にも満たないし、太陽光や風力発電などの新電源はすべて合わせても5.4%程度に過ぎない。日本の発電は80%以上が火力発電だ。必然的にCO2を排出する。燃料はLNGが44%程度で、次いで石炭が約32%。電力消費が増えれば、火力発電が増強されることになろう。
結局、現状の電力供給事情のままでは、EVやPHEVといった電動車が増えれば、電力供給の増加に伴うCO2排出量が増えることになる。だから、インフラ整備と並行して電動自動車推進論は行う必要があるのだ。
コメント
コメントの使い方個人的に疑問に思うのが、その19%しかない部分に対して国民一人一人に半強制的にEV買い替えを強要する政策ばかりやろうとしている(or やっている)こと。
その前に国や政治自治として発電CO2問題などやるべきことがあるのに見て見ぬふり。ネオン輝く繁華街も結局は同罪なのにね。