■現場で生まれた問い「レクサスLSは“どの国の”クルマなのか」
日本の上質なサービスと、静粛性という新たなクルマの価値を提案したレクサスは、北米で大成功を収めた。特に初代LSはレクサスブランドのフラッグシップとして、北米レクサスの基盤を作り上げた功労者だ。
北米では飛ぶ鳥を落とす勢いのLSが、セルシオに変わって2005年から日本で販売された。4代目LSの登場から、レクサスとLSの雲行きが怪しくなっていく。気づけば国内では「セルシオと何が違うのか」と問われ続け、海外からも初代LSのような驚きの声が、上がらなくなっていた。
筆者は、レクサスの営業マン時代、「LSはいったいどこの国のクルマなのだろうか」と、考えることがあった。常にライバルと言われるBMW・メルセデスに意識を置くLSは、日本ではなく、海外に合わせて改良を重ねているように感じた。
これはLSのボディサイズの変遷が物語る。初代から3代目までは全長4995mm(3代目後期は全長5015mm)、全幅1830mmに収まっていたが、4代目には全長が5090mm(ロング5210mm)になる。極めつけの現行型では5235mmと先代のロングボディよりも全長が長くなった。
5代目発表当時、筆者が既存のLSオーナーに新型への乗り換えを勧めに行くと、「駐車場に入らない」、「そこまで大きくなるならいらない」という言葉を多く耳にした。日本のLSオーナーは、こんなにも大きなLSを望んではいなかったように思う。
セルシオがなくなった今、LSは北米や海外へ向けたモデルではない。日本のフラッグシップセダンなのだ。日本のユーザーは、きっと母国である日本で、セルシオのようなクルマになることを、LSに望んでいるはずだ。
北米モデルLSの名を継承したことが原因なのか、現在も輸入車のような振る舞いを、LSから感じてしまう。
■「LSはセルシオだよね」ユーザーの声が示す方向性
レクサス営業マン時代に顧客から「LSはセルシオだよね」という声を多く耳にしている。この言葉が筆者には、「LSは日本のクルマで、あのときのセルシオのように進化するクルマだよね」という、確認に聞こえていた。
LSとは対照的に、ISやGSでは、「アルテッツァだよね」「アリストだよね」という声はほとんど聞かない。スピンドルグリルを採用したあたりから、こうした声は急激に減った。ISもGSも、日本市場を見据え、源流の特徴を残しながら、正常進化しているということだろう。
セルシオと同じ源流にいたことは、LSにとって財産であると思う。GSもISもアリストやアルテッツァの財産を残しながら、変わっていき、日本に馴染んだ。
LSだけに「セルシオがなくなったのはLSのせいだ」という声が残るのは、セルシオがLSになったからではないだろう。LSがセルシオと距離を置いているのがわかるからだ。
国内開業から16年が経過する。今、LSは初代に立ち返る必要があるのではないだろうか。
2013年、筆者はレクサスの新人研修でLS400の映像を見た。シャンパンタワーをボンネットに乗せ、シャシーダイナモ上を、時速220㎞を超えて走行するお馴染みのものだ。この時代のLSとセルシオの姿を、日本のユーザーは望んでいる。
LSには、日本の最高級車として、「セルシオらしさ」を見せてほしい。トヨタを、販売店を、そしてユーザーをセルシオショックから立ち直らせることができるのは、ショックの引き金を引いたLSだけなのだから。
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