■不具合の解消を目的とした更新と異なり、機能向上を目的とした画期的な更新
制御プログラムの更新は昨今では珍しいことではないが、今回のマツダの試みが一般的なアップデートと異なるのは「不具合を解消する」やいわゆる「最適化」ではなく「機能向上」まで踏み込んだことである。扱いこそ「サービスキャンペーン」となっているが、目的は性能向上にあるのだ。
実は、これまでも既存の車両を対象にアップデートにより機能が向上するプログラム更新はボルボやトヨタが先進安全性能の追加をおこなった例がある(いずれも有償でのアップデートだったがトヨタは4180円+作業料、ボルボは工賃込み9288円とわずかな金額)。
今回のマツダのアップデートにも先進安全性能機能向上が含まれているが、注目すべきはエンジン自体がパワーアップすることである(工場出荷後に装着するオプションなどではなく更新プログラムで)。パワートレーンの性能向上まで手を出すのはマツダがはじめてだ。
アップデートの対象となるモデルのe-SKYACTIV Xエンジンは当初、最高出力180ps/最大トルク224Nmだった。
しかし、制御プログラムをアップデートすることにより、最新モデルと同じ190ps/240Nmへとスペックが向上。別売オプションの制御プログラムを組み込むわけでもなく、あくまでアップデートによる標準状態として型式認定に関わる部分が変更されるというのは大きな出来事である。
このマツダの試み(型式認定に関わる部分の変更)は、2020年11月に道路運送車両法の一部が改正されたことで可能になったもの。すでに所有している車両へのソフトウェアアップデートによって性能変更や機能追加(改造)が可能になる許可制度が設けられたことで、アップデートの基準が明確化されるとともに、届出を行うことによりエンジンの出力など本来であれば型式認定で定められた部分まで変更すること認められたのだ。
繰り返しとなるが、カタログの記載値から数値が変わるような変更も行えるようになったのが大きなトピックである。
話をマツダ3やCX-30に戻すと、e-SKYACTIV Xエンジンは初期モデルの仕様が確定してからの次のステップで、機械的な変更なしに制御を煮詰めることでフィーリングアップする余地があることがわかったのだという。それを2020年末の商品改良に反映したが、このバージョンアップはひとことで言えばその内容を従来モデルにも反映する内容である。だから従来型オーナーも最新仕様と同じになるのだ。
言うなればこれは、SKYACTIV Xを選んでくれたオーナーに対するマツダの恩返し。本来なら有償でもおかしくないことだが、オーナーに感謝を込めて無料でおこなうというのだ。
「(今回の)e-SKYACTIV Xエンジンの性能の改良は、搭載車をご購入いただいたお客さまの走行データなどをもとに実現することができました」とマツダは説明する。
■今回の異例ともいえるアップデート その試みの真意は?
なかには「最初から完璧なものを出せ」という人もいるかもしれない。しかし、その考え方は正しくない。
機械である以上、やはり開発が進むほど進化していくのは当然である。本来ならばそれは従来型のオーナーには「諦めてもらう」しかないのだが、その進化を従来モデルにも反映するというのが今回のマツダの試みなのだ。もし「最初から完璧なものを出せ」というなら、それは制御の進化や熟成を否定することになる。
実は、これと同じ考えがパソコンやスマホのプログラムアップデートだ。OSもそうだが、ソフトウェアやアプリも同じこと。バージョンアップによって不具合を手当てするだけでなく、時には新しい機能が追加されることもある。
そういうと、パソコンなどで起きる「バージョンアップせず従来型のほうがよか った」というバージョンアップはクルマにも起こりえるのだろうかと心配する人もいることだろう。
しかし、基本的にはその心配はない。パソコンと違って「従来使っていた機能が使えなくなった」とか「周辺機器との相性が悪くなった」という状況はクルマでは普通は起きないないからだ。
ただし、例外はチューニングで制御プログラムなどを標準状態から変更している場合。その際はトラブルにつながる可能性もあるので、最新の注意が必要である。また、バージョンアップによりクルマは間違いなく進化するはずだが、なかには「従来モデルのフィーリングのほうが好みだった」というケースも、稀にあるかもしれない。
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