ひと昔前は、クルマに乗る前に「このクルマ、土禁?」とか「このクルマ土禁だから靴脱いで~」なんて聞く人も結構いた。しかし、時代が変わったのか、最近はあまり聞くことは少なくなった気がする。とはいえ、一部には根強い土足禁止の人もいて、「運転する時用にサンダルを載せてるよ」なんて声も……。
しかし、裸足はもちろんサンダルという履物も、実際は運転には適していない。なぜ運転に適さないのか? また土禁のクルマだから下取り価格が変わることがあるのか? など、歴史的背景も振り返りつつ解説していきたい。
文/諸星陽一
写真/Adobe Stock(David Pereiras©@Adobe Stock)
【画像ギャラリー】クルマの「土禁」は安全運転上のやってはいけない、日本の悪しき慣習 !?
■クルマの土足禁止文化は日本の履物を脱ぐ慣習の名残?
毎日の発表数は減ってきたものの、相変わらず予断を許さない状況なのが新型コロナウイルスのまん延です。
しかし、欧米に比べると日本は明らかに感染数が少ないのも事実です。日本での感染数が少ない、いわゆる「ファクターX」はさまざまな理由が上げられていますが、そのうちのひとつに“日本人は靴を脱いでから家に入る”という文化が大きく影響していると言われています。こうした文化のひとつの現れとして、クルマに乗るときも靴を脱いで乗る「土禁(ドキン)=土足禁止」という行為が多く行われていた時代がありました。
クルマを大切にするという考え方もありますが、これらが流行った時代は日本はまだまだ道路整備が遅れていて、砂利道や泥道も多く存在していたという時代背景もあります。また、日本での乗り物と言えば、籠や人力車が先に存在し、それらに乗る際には草履を脱いで乗ることが当たり前でした。
そもそも足で何かを操作するという行為がなかったため、くるぶしを固定する必要はなかったわけです。普段の生活では走るということもなかったのでしょう、普段の生活では日本人は草履のようにくるぶしを固定しない履き物を履いてきました。
履き物が脱ぎやすいいっぽうで足は汚れますので、家に上がる前には土間で草履を脱いで足を洗ってから上がりました。これは戦後しばらくまで当たり前の行為だったようで、戦後が舞台の映画などではこうした場面が描かれています。
一方で「わらじ」という履き物もあります。わらじは草履やサンダルと同じようなものだと思われていますが、鼻緒をカカト部にある耳縄という部分まで引っ張ってしっかりと結ぶことで履き物が足から離れないようにできます。戦国時代の武士、飛脚、旅人などはわらじを使っていたのです。とくに江戸時代に入ってからは戦もなくなり、普段の生活はかなりゆったりしてのだと推測できます。
■裸足やサンダルでクルマを運転することは非常に危険な行為
さて、前置きが長くなりましたが、日本人は靴を脱いで家に上がるという文化的な裏付けもあって、クルマに乗る際に靴を脱ぐという行為をあまり抵抗なく行われてきました。あの人はクルマを大切にしているだな……程度のものです。
しかし、これは運転をするのであれば非常に危険な行為です。もちろん、運転用の靴を用意しておいてそれに履き替えるというなら話は別ですが。クルマを運転する際に裸足で乗る、スリッパで乗る、サンダルで乗るということは非常に危険な行為で絶対にやめるべきことです。
法規には明確には記載されていませんが、免許更新時に購入させられる安全の教則などには“下駄やハイヒールなどを履いて運転しないようにしましょう”と書かれていることが多く見られます。
私が言いたいのは「違反だからやめましょう」ではありません。「少しでも安全に運転するためにやめましょう」なのです。
まず、裸足で運転しても急ブレーキを強く踏むことができません。以前、クローズドコースで試したことがありますが、裸足ではブレーキペダルが強く踏めないだけでなく、ブレーキフィールも正確に伝わってきませんでした。
ABS作動時のキックバックも、裸足より靴下、靴下より靴を履いていたときのほうが明確です。万が一の際の強いブレーキを踏むためには、きちんとした硬い靴底が必要です。また、カカトが固定されてないスリッパ、サンダルや草履、雪駄などは、操作中に脱げてしまう可能性があるため危険です。
脱げてしまうと裸足で操作しないといけないだけでなく、脱げた履き物がペダルの裏側に入りこんで操作を妨げる可能性があります。こうしたことを考慮してサンダルなどカカトが固定されていない靴は使わない、となるわけです。
クルマを大切にするために土足禁止にしたいのはよくわかります。しかし、その大切にしたいクルマに乗った時に、ペダル操作がいい加減になって事故を起こしてしまっては元も子もありません。
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