■ダンパーの重要性とは?
BC:ここまでサスペンション形式などの話をいただきましたが、ではダンパーの重要性というと、どのような点なのでしょうか?
松田:スプリングだけだと動きが収束しないので、ダンパーで減衰をしてあげる。理論的にはそうなんですが、タイヤは常に上下動しているものなので、縮んでスプリングが反力を発生させようとしている時に、再び縮むような入力があっても、タイヤを路面にしっかり追従するようにダンパーがコントロールしないといけません。
とはいえ、このコントロールが難しく、ダメなダンパーだとタイヤが遊んでしまって、動きがメチャクチャになってしまいます。
今はどこのメーカーも、入力があったら「タンッ」という一発で収束させることにこだわっています。それだけ早い制御が必要になってきているんです。
BC:近年では減衰力を走行中に変更できる電子制御ダンパーが登場していますが、松田さんが注目しているシステムはありますか?
松田:電子制御ダンパーにはVWのDCCなどがありますが、その中でも一番おもしろいと思ったのは、GMの子会社だったデルファイが開発した電子制御ダンピングシステム「マグネライド」ですね。
ダンパーオイルの中に、金属粉末(磁性体)が入っていて、バルブの部分を電磁石にしている。そのバルブを流通するオイルの粘度を電気の強さで調整して、減衰力を変化させています。電磁石なので、瞬間的に変化するんです。
コルベットC5 50thアニバーサリーにマグネティックライドを投入した時に、ル・マンからパリまで試乗して、技術解説も受けました。もの凄く早いスピードで磁力を連続的に変化させているんですが、当時の乗り味は不思議な感じがしましたね。
BC:このシステムは現在では、キャデラック、アウディ、新型NSXなど多くのクルマに採用されていて、かなり普及していますね。
■速さと快適さは両立可能?
BC:それではここまでの話を総合してお聞きしますが、速く走れるサスペンションと、乗り心地がいいサスペンションは同時に実現可能だと考えますか?
松田:可能だと思います。まず前提の話になりますが、タイムを追求するレーシングスポーツは当然乗り心地も犠牲にするし、各サーキットの特性に合わせてスペシャルなセッティングになっていくので別物と考えたほうがいいということです。
一般車というのはさまざまな条件の道を走る必要性があるので、そのなかで気持ちよく走れて、スポーティなハンドリングを作る必要がある。そのコースに特化して、このクルマはいいハンドリングだというのは違います。ニュルも速度域が高すぎますが、あのくらい路面の凹凸があるほうが一般道の条件には近いです。
基本的に速いクルマとは乗り心地などをすべて満足させてくれるサスペンションを装着していて、サーキットを走らせても、ドライバーが安心感を感じて、コーナリングを楽しむことができるんです。
レーシングスポーツのような特化した領域まで持っていかなければ、このようなサスペンションはサーキットを選ばず速く走れます。
■最良から得られるモノ
BC:では最後ですが、そのいいサスペンションがもたらすいいハンドリングや、恩恵とはどういうものなのでしょうか?
松田:クルマがビシッと安定していて、車両の上下動による目の補正、いわゆるカメラの手ブレ補正のような機能が働かず、ドライバーが疲れにくいことですね。
いいサスペンションは、真っすぐに走る、ハンドルを切った時に溜めがあって過敏に反応しない、ドライバーにしっかり情報を伝えるということがしっかりしています。
クルマが自立直進している時に、ステアリングのニュートラルの位置をドライバーに教えてくれて、インフォメーションがしっかりあるんです。ハンドルを切っていった時にクルマが反応するところの節度感が、UなのかVなのかと私は表現しますが、あまり尖ったVだと、少しハンドルを切っただけでヨー*が発生します。
それ自体は悪いことではないけれど、ふらつきの原因になるので、直進安定性がビシッと決まっていたクルマの場合だけです。
いいサスペンションは直進安定性が高く、VとUの間くらいで、フロントタイヤがしっかりグリップしているのが感じられ、常に安心感のあるハンドリングを与えてくれます。
BC:コスト的な問題はありますが、今回話に出てきたような優れたサスペンションを、もっと手の届きやすいクルマにこそ採用してもらいたいものですね。また、今後の技術革新にも期待しましょう。
*編集部註:ヨーイング(ヨー)…車体の上下を軸とした回転運動。車体を真上から見た時に、左右のどちらかに旋回する挙動
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