■程度次第で1000万円超も! W126の中古車市場
バブル期に日本に大量にもたらされたW126は、現在に至る30年の間に程度の悪い個体が淘汰され、現在は程度良好の車両が売れ筋となっている。
販売車両のメインはタマ数の多い後期型の300SEと560SELで、なおかつ「サッコプレート」のカラーリングがボディ同系色となった1989年以降のモデルが多い。
主な顧客層は、W126が新車で販売されていた時代に実車に憧れたアラフィフ世代。バブル期に憧れた逸品を手に入れる喜びは格別だ。
価格は程度によりピンキリだが、主に200万〜300万円代、500万〜1000万円以内、そして1000万円以上の価格帯に分けられる。200万〜300万円代の物件は、走行距離は多めだが、定期的に整備を受けてきて、程度も良好な車両が多い。
500万〜1000万円以内の物件は、走行距離はそれなりに伸びているものの、内外装のコンディションは極上という希少物件。そして1000万円以上の物件は、新車の雰囲気が残っているような奇跡的な車両で、ほとんど走行していないような個体もある。
実際に1200万円で販売されている車両は、1988年式で走行距離2000kmという車両だった。
■メルセデス・ベンツの主治医はココ! 荒聖治選手の親父さんはメルセデスのマイスターだった!
この企画があることもあり、知り合いの560SELを見せてもらうことにした。その個体は新車並行のワンオーナー車で、走行距離わずか3万kmという希少物件。しかしながらエンジンは時々かからない症状があり、さらにエアコンも壊れているという。
そこで、ネオクラシック時代のメルセデスに精通した、五月ファクトリーの荒光男さんのところに560SELを入庫させるという。そこで筆者も同行し、W126のウィークポイントなどを教えてもらうことにした。
■五月ファクトリー
●所在地:神奈川県川崎市高津区北見方1-12-11
●連絡先:044-322-8015
「ベンツは俺の人生だ!」と語る荒光男さんは、実はレーシングドライバーとして知られる荒聖治さんの親父さん。ヤナセのメカニックとして長年働いてきた豊富なノウハウにより、メルセデスの主治医として知る人ぞ知る存在だ。
この日もエンジンがかからず、レッカーされて荒さんの元にやってきた560SEL。納屋で発掘されたクルマとまでは言わないが、きちんとした状態に仕上げるには時間とお金と愛情が必要な状態である。
クルマが到着すると、荒さんはすぐにエアクリーナーボックスを開けて診断を開始。すぐにエンジン本体の燃料漏れを発見する。
「W126はフューエルポンプを交換する場合が多いけど、直らないことも多いんですよ。フューエルポンプからの圧力がいくら正常でも、燃料が漏れていてシステムプレッシャーが上がらなければバルブが開かないので、エンジンはかからないというわけです」。
ものの数分で原因を突き止めてしまう姿を目の当たりにして驚いたが、さらにW126のウィークポイントについて訊いてみた。
「560SELは、並行車のようにリアにハイドロが付いている場合はハイドロが壊れるけど、足回りはショックがダメになるくらいでそんなに壊れません。消耗部品を交換すれば元通りになります。
エアコンは日本製なので通常は壊れないのですが、冬場などでエアコンを使わないと、ガスが抜けてしまってそこから湿気が入って錆びてしまうことがあります。
なので、エアコンのコンプレッサーは常にオンにして乗るようにするのが長持ちの秘訣です。あと、電装品が作動しない場合は棒ヒューズが通電不良になっている場合があるので、ヒューズを指で転がしていろいろな方向に変えてあげることで直ることがあります」。
最後にW126を長く乗り続けられるヒントについても尋ねてみた。
「基本的にキレイにしていないとダメ。定期点検をしていれば、あんなに良いクルマはないですよ。
メカニックがクルマに精通していれば、急所急所を押さえていけるので、走行距離と年数で必要な部品を取り替えていきます。ボディは100年持つと言われているので、そういうメカニックに出会えれば、ずっと乗り続けられますよ」。
かくいう筆者も、四半世紀前に1987年式の300SEに乗っていた。そのときは車軸とエアコンに問題があり、ヤナセに尋ねたら修理代70万円と言われ、泣く泣く手放した経験がある。このとき荒さんに出会えていたら、きっと乗り続けることができたはずだ。
いざクラシック・メルセデスを購入したものの、きちんと直せる人が見つからず、最終的に荒さんのところに持ち込まれるケースが少なくないという。まさにメルセデスの駆け込み寺だ。昔のクルマを直す人が少なくなってきた今、荒さんのような主治医の存在は本当に心強いばかりだ。
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