■トヨタとシャープが試作した実験車両のパネルは、なんと2000万円!!?
トヨタは2019年に、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の開発プロジェクトとしてシャープとともに、プリウスPHVのボディに高効率なソーラーパネルを追加してEVとしての航続距離向上を図るという実証実験を行っている。これは純正オプションの単結晶シリコン型ソーラーパネルを組み込んだルーフパネルの代わりに、シャープが試作したガリウムヒ素系のソーラーパネルをルーフだけでなく、ボンネットやリアウインドウにまで貼ることで発電量を増やし、駆動用バッテリーを充電させる能力を高めていた。
この実験車両に使われたガリウムヒ素系のソーラーパネルは変換効率34%以上と、通常のシリコン系と比べると1.5倍もの高効率を誇る。同タイプでも人工衛星などに使われるモノは変換効率40%を誇るというから、試作品とはいえ現時点で最高レベルの性能、という訳ではないようだが、現在の量産品と比べれば十分以上に発電性能は高いと言える。
しかも厚さは0.03mmと非常に薄いので、クルマのボディに沿わせて滑らかな曲面に仕上げることができる。発電効率が高いだけでなく、貼る面積を増やさなければ発電量はそれほど増えないから、こうした自由度は重要だ。それでもクルマの大きさやソーラーパネルを貼って有効に使える面積は限られている。
実験によれば、純正オプションのソーラーパネルの最大出力は180Wであるのに対して、試作車のソーラーパネルは全体で860Wと5倍近くに高めることができたそうだ。さらに量産車のプリウスPHVでは走行中は太陽光を浴びても、充電はできない仕様となっている(制御が複雑すぎてオプション価格がさらに上昇してしまうことになる、と思われる)のに対し、走行中も発電してバッテリーを充電できるため、最大で1日に56kmを走行できるだけの電力を太陽光だけでまかなえるようになったそうだ。
こう聞くと、プリウスPHVのEVモードの走行距離とほとんど同じ(WLTCモードで60km)なのだから、ほとんどの人はEVモードの範囲だけで走行するのなら、ソーラーパネルによる充電だけで十分なのでは、と思う人もいるだろう。しかし、現時点ではこれを量産化する訳にはいかないのだ。
まずは絶対的な価格という障害がある。ガリウムヒ素等の化合物は高性能だが非常に高価で、現時点では単結晶シリコンの太陽電池パネルと比べ、コストは400倍とも言われている。そのためプリウス1台分の費用も2000万円くらいになってしまって、とてもクルマの部品のコストとして吸収できるレベルではないのだ。
しかも、ヒ素は毒性があるので扱いは慎重にならなければならないなど、導入へのハードルは相当に高い。製造過程でもカドミウムを使うため、生産設備や後処理には、相当な配慮が必要となる。
しかしNEDOは、この高性能なガリウムヒ素ソーラーパネルの生産技術を開発することで、コストを1/10に下げる研究も行なっている。それが実現すれば、生産規模を拡大することができるため、量産効果でさらにコストは1/20に下げることが可能だと予測しているのだ。
それでも現在の単結晶シリコン系ソーラーパネルより2倍のコストとなり、同じくプリウスPHVのルーフパネルに装着したとすると、2倍の電力を発電できたとしても価格は56万円、やっぱり元は取れない。
前述の実験車両のようにボンネットとリアウインドウもソーラーパネルで覆うとなると、面積は約3倍なので、価格は160万円を超えてしまうことになる。10年後にはバッテリーの価格が下がっていたとしても、100万円台のオプションでソーラーパネルを装着しても、やはり元を取るのは厳しいだろう。
単結晶シリコン系のソーラーパネルでも発電効率を高める研究は進められており、10年後にはガリウムヒ素系に発電効率でも大分追い付くことも予想できる。しかし複雑な構造のソーラーパネルは、やはり生産コストが上昇するので、現在のプリウスPHVのオプションよりも安く、たくさん発電できるようになることは難しそうだ。
EVが車体のソーラーパネルだけで走れるようになるには、あと20~30年はかかると思っていいのではないだろうか。しかもその間に車体の小型化などが進むと、ソーラーパネルを貼れる面積はさらに少なくなる。やはり発電はクルマとは別の拠点で行なったほうが効率がよさそうだ。
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