ランエボ対インプが遺したもの いま自動車界に必要なのは「名勝負」だ!!

ランエボ対インプが遺したもの いま自動車界に必要なのは「名勝負」だ!!

安全性能や燃費性能、乗り心地やパッケージ技術は格段に進歩した日本の自動車。しかし15年前、20年前と比べると、明らかにいまの日本自動車界には「熱さ」が足りない。なぜ足りないのか。それはやっぱりメーカー同士の「勝負」がポイントだと思うのです。

もちろん今でもメーカー間のシェア争いはあるし、ライバルといえるような同じカテゴリー、同じ車格のモデルはたくさんあります。しかし以前のように、それぞれのオーナーがプライドをもって「うちのクルマのほうがあいつらより上だ」と言い合うような、熱いライバル関係は見当たらなくなってしまいました。

それはなぜか。いまこそ日本自動車界に「名勝負」が必要なのではないか。そんな考察と、「日本自動車界のライバル名勝負といえばこれ」ということで、ランエボ対インプレッサの鍔迫り合いを振り返っていただきます。
文:片岡英明


■日本の自動車界は「ライバル争い」が引っ張ってきた

スポーツの世界だけでなく、仕事や人生にもライバルは必要だ。手強いライバルがいて、お互いが勝つために切磋琢磨すれば、新しい展開があるし、新境地も切り開くことができる。ライバルがいれば、競争のないときよりも伸び幅は大きいし、進歩も早い。

もちろん自動車の世界にもライバルは必要だ。モータースポーツの世界だけではなく、販売やパフォーマンスの面でもライバルが果たす役割は大きい。

かつて日本自動車界にも、メーカー同士が社運をかけた勝負があった。

量産車では日産ブルーバードとトヨタコロナが「BC戦争」を、トヨタカローラと日産サニーが「CS戦争」を繰り広げ、ベストセラーの座を競った。

1966年に登場。当時、市場の中心だったサニーよりも100cc排気量が大きいことをアピールした「プラス100ccの余裕」というキャッチコピーで勝負を煽った
1966年に登場。当時、市場の中心だったサニーよりも100cc排気量が大きいことをアピールした「プラス100ccの余裕」というキャッチコピーで勝負を煽った

1980年代にはそこにマツダファミリアとホンダシビックが加わり、FFファミリーカーの王座をかけて熾烈な販売合戦を行っている。

また、レースの世界ではスカイラインGT-Rとマツダのロータリー軍団、その下のクラスではサニーとカローラ、これにシビックがからんだ。グループAカーによるレースでは、シビックとレビン/トレノが覇を競い、レース史に残る名勝負を演じている。

ご存じ「スカイラインGT-R」の起源も「レースに勝つため」だった。1969年の登場直後から国内レースに参戦し、連勝を重ねた
ご存じ「スカイラインGT-R」の起源も「レースに勝つため」だった。1969年の登場直後から国内レースに参戦し、連勝を重ねた

ラリーの分野では、ギャランVR-4、ブルーバードSSS-R、レガシィRSによる三つ巴の争いに続き、1990年代からは三菱ランサーエボリューションとスバルインプレッサWRX STIの白熱した勝負が多くの人に感動を与えた。

また、WRC(世界ラリー選手権)でハイレベルな争いを続けることで、三菱とスバルは多くのノウハウと高度な技術力を身につけている。が、この2車もリーマンショックを機に、WRCの表舞台から降りてしまった。

今の日本車は、エンジニアが情熱を傾けて開発し、メーカーの威信をかけて直球勝負するクルマが少なくなっている。ランエボとインプレッサは、今でも全日本ラリー選手権で熾烈なトップ争いを演じているが、両メーカーはともにWRCの舞台からは降りてしまった。GT-Rを含め、新車市場にスポーツカーは用意されているものの、次の世代の硬派モデルがあるのか不明だ。

■名勝負があったからこそワクワクした

最近、日本の自動車メーカーとサプライヤーは、真剣勝負をしなくなっている。少子化で市場規模が縮小している日本に見切りをつけ、売りやすいアジアや北米市場に目を向けているからだ。日本専用モデルやスパルタンなクルマより、世界を舞台に数を稼げるクルマを優先して開発を行う。

今は自動車の技術レベルが上がり、平均点が高くなった。これも勝負を避けるようになった理由のひとつである。が、これまで日本の自動車メーカーは、他メーカーに遅れを取らないよう新技術の開拓に意欲を燃やし、新しいアイデアを盛り込むことで世界をリードし、認められてきた。

確かに今もメイド・イン・ジャパンの個性的な高性能モデルを愛するファンは多い。が、しのぎを削る白熱した勝負がないと、技術は育たない。

1990年代から長い間、名勝負を演じてきたのがランエボとインプレッサだ。白熱したバトルでの勝ち負けが、次につながる新技術を生み、競い合いながら成長してきた。いつしか勝ち負けを超えて、クルマ好きは高揚し、自動車本来の魅力にワクワクと期待を感じたのである。

競い合っているとき、この2車に乗ると開発陣の顔が見えてきた。10年の間にライバルが追いつけないほど速くなり、ヨーロッパの名門ブランドを軒並みあわてさせ、置き去りにしたのである。

フォードやシトロエン、プジョーなどは必死に食い下がろうとした。が、追いつけなかったのだ。

そして三菱とスバルが撤退したあとは、再びヨーロッパ勢の天下となっている。

日本車が元気を失っている今こそ、かつてのようなワクワクする戦いが見たい。日本を元気にするためにも、ヨーロッパ勢にひと泡吹かせる硬派のスポーツモデルの出現を熱烈ラブコールする。

90年代〜2000年代前半、日本自動車界の名勝負といえばランエボ対インプレッサの戦いだった
90年代〜2000年代前半、日本自動車界の名勝負といえばランエボ対インプレッサの戦いだった

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