■今回の値上げは首都高主導ではない
「いやあ、納得できない! こんな値上げ、首都高が私腹を肥やそうとしてるんだろう!」
そう思う方もいるだろうが、この案を決めたのは首都高(民営化された現在は首都高速道路株式会社)ではなく、国土交通省だ。では国交省の官僚が決めたのかというと、それも違う。
決定したのは、国土交通省の幹線道路部会という委員会で、そのメンバーを見ると、14人中11名が大学教授などの学者。3名が大新聞の論説委員等で構成されている。
なぜ学者が多いかと言えば、利害関係なしに公平性を保てる確率が高いからだろう。
私も首都高の委員を務めたことがあるが、事前に多くの下調べをしたうえで、報酬は1回の会合につき2万円くらい(年に数回)。もちろん日本学術会議みたいな名誉もない。使命感だけが支えだ。
私の経験から言わせてもらえば、ああいった委員会の場で、どこかの利益代表的な発言などできないし、官僚は事務方に徹していて、結論を誘導するようなこともない(昔のことはわからないが)。
5年前に「夢のように理想的な料金体系」が実現したのは、学者の皆さんが大所高所から理想的な方向性を示してくれたからだと考えている。
もちろん、学者が無謬であるはずはないが、5年前の答申は、学者ならではの理想論だった。長年高速道路を取材していた私も、NEXCOと首都高の枠を完全に取り払った料金体系は無理だと思っていた。
なぜなら、NEXCOの株主は100%国(財務大臣)だが、首都高は東京都をはじめとする自治体も株主で、料金の変更には、すべての自治体の承認が必要だからだ。鉄道でも、JRと私鉄の乗り継ぎ割引は実現しているが、完全にフラットにはできていない。
しかし学者先生は、その壁を越え、利便性が高く渋滞緩和効果も高い、最も合理的な結論を出したのである。
■物流業者のようなメリットが一般ユーザーにないのが問題だ!
首都圏の高速道路の交通量の平準化は、すでに充分達成されている。よって、今回の上限料金値上げによる渋滞緩和効果はない。
ただ、首都高の料金収入も増えないだろう。上限料金引き上げのかわりに、深夜割引(0~4時まで20%割引)の導入と、大口多頻度割引の拡大(最大割引幅を35%から45%へ)があるからだ。
大口多頻度割引とは、物流業者などのETCコーポレートカードが対象だ。契約者単位で月間利用額が100万円以上、1カ月の利用料金が1台あたり3万円を超える(首都高C2の内側を利用しない場合)などの条件を満たす部分に関して、最大の割引幅(45%)が適用される。
割引率の10%拡大は、物流業者にとっては非常に大きい。よって今回の値上げに関して、トラック協会等物流業者からの反対はまったく聞こえてこない。上限料金が値上げになるのはかなりの長距離利用の場合だけだから、逆に値下げになる業者も少なくないだろう。
今回の案で首都高の料金収入が増えないのは、これが理由だ。首都高の利用は、7~8割が「業務利用」占められている。ETCコーポレートカードの利用率もそれに準ずるので、割引額は莫大なものになる。
逆に、35.7kmを超える長距離利用は、全体の数%に過ぎない。首都高は、2065年までと決められている建設費の償還期限ギリギリの財務状況のため、料金収入が大きく減らない範囲内で案が決定されているはずだが、大きく増えることもありえない。
今回の案では、首都高の一般ユーザーにはほとんどメリットはない。物流業者への配慮は最大限行われているのに、これは不公平ではないか。つまり今回の案は、バランスを欠いている。
大口多頻度割引の10%上乗せは大きすぎる。5%程度でいい。その分一般利用者にも、日祝割引の復活やマイレージ割引の導入などのメリットを与えるべきだ。
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