■Apple参入で「自動車」の操作が変わる可能性
1994年からAppleユーザーである筆者は、Appleカーの実用化に期待を寄せる一人です。分厚い説明書を片手に操作を行なうことが一般的であった時代に、人が直感的に操作しやすいGUI(グラフィカルユーザインタフェース)一本でユーザーとの対話を試みた新たな想像力と、それを採用したApple社の決断力は、この先の自動運転社会にとって有利に働く面があるからです。
具体的には、GUIによって得られた情報を元に人の行動を促すHMIの実装は、「言語に頼らない、わかりやすい使用環境」が期待できます。
筆者の空想に過ぎませんが、SAEレベル1~2までの運転支援技術を搭載した車両で考えれば、目的地設定を行なうと計算されたルート上で使用できるACC(前走車追従)機能やLKS(車線中央維持)機能が自動的に介入する……。
また、レベル3の条件付自動運転であれば、3つの部分的な解放(※1)が得られる時間と場所を、リアルタイムで変動させながら正確に予測して、その時間内で最適なサブタスクの提案を行なうなど、目指すべき移動の質向上が期待できる……。
こうしたシームレスな使い方が実現するとすれば、まさしくそれはApple社をApple社たらしめる提案でしょう。
現状、自動化レベルの枠組みとその運用方法はWP29(※2)を中心とした国際組織において基準が示されています。
仮にAppleカーが出現したとすれば、そうした既成概念のいくつかに風穴があき、そこをきっかけとして自動運転技術の社会的受容性が高まるのではないか、そんな淡い期待も抱いています。
■「実用化」は出来るかもしれないが…
しかし、これまで筆者が取材した限りでいえば、Apple社主導のAppleカーは、実用化こそすれ、普及は非常に厳しいと判断します。
仮に製造を請け負う自動車メーカーとの交渉に成功し、実車が世に出たとしても、販売後のメンテナンスや部品の在庫管理、さらにはPL(製造物責任)法に代表される法的責任まで、リスクを承知でその自動車メーカーが正面から請け負うことは考えにくいからです。
しかし「Appleカーは形を変えて普及する」とするならば、大いに実現の可能性は高まります。Googleと同じく、Appleカーとして蓄積してきた自動運転にまつわる要素技術を、ワンパッケージとして自動車メーカーに売り込む「ソフトウェアカンパニー」としての立ち位置です。
その鍵を握るのが1.人工知能、2.通信環境、3.HMI。
筆者はこの3つを「自動運転の三種の神器」と定めました。三種の神器は、自動運転技術を開発するメーカーやサプライヤー企業がもっとも大切にしなければならないテーマです。
Apple社はこうした三種の神器を大切に育んできた企業のひとつであり、多くはiPhoneなどに代表される自社製品ユーザーのフィードバックに支えられています。
つまり、利用者のビッグデータを解析し、タイムリーに新製品へとつなげる。そのプロセスにApple社は長けているのです。ここに自動車メーカーがApple社を技術パートナーとする可能性のひとつが挙げられます。
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