■作品の中に生き続けるポール・ウォーカー
さて、そこで今回フィーチャーしたいのは潜入捜査官ブライアンを演じたポール・ウォーカーである。
ご存じの通り彼は、13年の11月、友人の運転していた赤いポルシェカレラGTに乗り合わせ、交通事故に遭って亡くなってしまった。
途中まで撮影が終わっていたシリーズ第7弾『ワイルド・スピードSKY MISSION』(15)はデジタル技術と、彼とよく似た弟を代役に立て完成した。『ワイルド・スピード』シリーズはそんな彼が大ブレイクするきっかけになった映画でもあり、彼の代表作なのだ。
ウォーカーは本作に主演する前から大の車好きだったようで、当時、彼にインタビューしたとき、こんなことを語ってくれた。
「僕が車好きなのはDNAだと思うんだ。祖父はカーレーサー、父はギアヘッド(車オタク)だったから、いつも車をいじっていた。そういう姿を見ていたせいで、僕自身も車好きになったんだと思う。
もちろん、ドライビングは得意なんだけど、それ以上の技術を得るため、ドライビングスクールに通いみっちり教え込まれた。これはとても楽しい経験だったから、撮影が終わったあともいろんなドライビングスクールに行き、それぞれでいろんなことを教えてもらったよ」
さらに、休日の過ごし方についてもこういうくらいである。
「暇さえあればレーストラックに行っている。好きなのはNASCAよりフォーミュラ1のほうで、一番好きなのはWRCなんだよ。何しろラリーが大好きなんだ。好きなレーサーを挙げろと言われれば、間違いなく(ミハエル・)シューマッハだ。彼とは一度会ったことがあって、そのときの印象も最高だったから」
そもそも『ワイルド・スピード』の企画も、ウォーカーの希望だった『デイズ・オブ・サンダー』(90)×『フェイク』(97)のような映画、というところから始まったものと言われている。
前者はトム・クルーズ主演のストックカーレーサーの物語、後者はジョニー・デップ主演の潜入捜査官ものと、本作の設定と重なり合う。
■ポール・ウォーカーは生粋の日本車マニア
本作のあと、シリーズの2作目『ワイルド・スピードX2』(03)のときのインタビューでは、日本車への愛を熱く語ってくれた。
「僕の愛車は日産のR34スカイラインGT-Rだよ。以前はヨーロッパの車が好きだったんだけど、車を自分でチューンするようになって日本車が大好きになった。日本車のほうがいろいろ出来るし面白い。
それに何といっても経済的で信頼性が高いだろ? 僕のスカイラインなんて1ガロン(約3.8リットル)で20マイル(32km)も走るんだから! ほかに三菱ランサー・エボリューションや、スバルのWRXをもっている」
そして、最後は笑いながらこう締めくくってくれた。
「日本車のスポークスマンをやりたいくらいだよ。日産、三菱、スバル、全部まとめてね!」
『ワイルド・スピード』シリーズが続く限り、ブライアンを演じたポール・ウォーカーの名前は忘れられることはない。最新作『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』(日本公開8月6日予定)を楽しむ前に、そのルーツに戻ってみるのもまた面白いだろう。
●解説
ロサンゼルスで多発する輸送トラックの強奪事件。犯人はチームで行動し、日本車の改造車を使っていることから、車好きの捜査官ブライアンが潜入捜査に入る。彼はまず改造車のストリートレースに参加し、カーレースに熱狂する若者たちのカリスマ、ドミニクに近づく。
監督はロブ・コーエン。ウォーカーとは『ザ・スカルズ/髑髏の誓い』(00)が最初の仕事で、ヴィン・ディーゼルとは本作のあと『トリプルX』(02)で再び組んでいる。
デジタルに明るい監督だからか、本作でもニトロを仕掛けた改造車のエンジンの動きをデジタルで表現し、『トリプルX』では、アクロバティックなアクションをするスタントマンの顔に、ディーゼルの顔を入れ込むというデジタル技術を用い、アクションをより面白く演出している。
また、ドミニクの恋人レティを演じたミシェル・ロドリゲス、ドミニクの妹ミア役のジョーダナ・ブリュースターは本作の出演が決まったとき、車の運転免許はもっていなかったという。もちろん、その後、慌てて取ったというが、若葉マークとは思えない堂々たる運転っぷり。演技とスタントの賜物だ。
本作の日本の興収は4億円、ワールドワイドでは2憶ドル(約216億円)ほどだったが、シリーズ第8作目『ワイルド・スピードICE BREAK』(17)ではその10倍の40憶円。ワールドワイドでは12憶ドル(約1297憶円)もの収益をあげている。モンスター級の人気シリーズに成長しているのだ。
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