■登場時から誤算アリ!? 商用バンにしては…の商品力に問題が?
ハイゼットキャディーの売れ行きが下がった一番の理由は商品力だ。ボンネットの内部にエンジンを収めたウェイクをベースに開発されたから、荷室長は1310mmと短い。ハイゼットカーゴはエンジンを前席の下に搭載してボディの前側を短く抑えたから、荷室長は1860mmに達する。
最大積載量も異なり、ハイゼットキャディーは150kgだ。ハイゼットカーゴの350kgを大幅に下まわった。
ハイゼットキャディーは、フラワーショップなどが、小さくて軽い荷物を配達するのに使うライト感覚の軽商用バンとして開発されている。このコンセプトを考えれば、荷室長が短く最大積載量も軽くて構わないが、それならウェイクやタントの後席を畳んで使えばよい。ウェイクやタントであれば、2人乗りのハイゼットキャディーと違って4名で移動できる。取り引き相手を後席に同乗させる時なども便利だ。実際、ウェイクやタントを仕事に使うユーザーも多く、ハイゼットキャディーは機能が見劣りした。
そしてハイゼットキャディーの価格は、2列シートの割にあまり安くない。「X・SAIII」は約138万円で、機能と装備のバランスを考えると、後席と多彩なシートアレンジを備えるウェイクのほうが買い得だ。
一方、ビジネスと割り切るなら、ハイゼットカーゴのほうが長い荷物も積めて便利だ。つまりハイゼットキャディーの機能は中途半端で、ユーザーはハイゼットカーゴか、あるいは軽乗用車のウェイク/タントか、このどちらかを選んだ。
ハイゼットキャディーについて販売店に尋ねると、次のように返答された。
「ハイゼットキャディーは、ほとんど宣伝も行われず、ラインナップされていることを知らないお客様も多かった。仮に街中で見かけても、ウェイクと区別が付かず、ハイゼットキャディーの車名も認識されない。クルマの売れ方として、お客様が街中やTVのCMで見かけて販売に繋がることも多いが、ハイゼットキャディーにはそれがなかった」
「しかも軽商用バンでは荷室が狭いので、ハイゼットカーゴのお客様がハイゼットキャディーに乗り替えることはない。一方、乗用車のウェイクは、タントほどではないが根強く売れており、今後の改良ではオートライトを装着するなど新しい法規にも対応していく」
■「N-VAN」も登場し 軽バンとしての居場所を失う
ちなみにハイゼットキャディーのような軽乗用車をベースにした軽商用バンとしては、ホンダ『N-BOX』から発展した『N-VAN』がある。この売れ行きは堅調で、登場した翌年の2019年には1カ月平均で3769台、2020年には2699台を届け出した。ハイゼットカーゴに比べると少ないが、ハイゼットキャディーよりは好調に売れている。
N-VANが相応に成功した理由は2つある。まずはN-BOXとは違う商用車として独自の工夫を施したことだ。後席に加えて助手席も畳めるから、1名乗車時には、運転席の周囲がすべて平らで床の低い大容量の荷室になる。左側のピラー(柱)は、タントのようにスライドドアに内蔵され、前後のドアを両方ともに開くと開口幅が1580mmに達する。
これらの機能により、長い荷物をボディの左側面から積み込むことも可能だ。荷物の積み降ろしをする作業効率が優れている。この特徴は、ハイゼットカーゴやスズキ『エブリイ』のような既存の軽商用バンでは得られない。
しかもホンダは従来型の『アクティバン』を廃止したから、軽商用バンはN-VANのみだ。ホンダの販売店と付き合いがあり、軽商用バンが欲しいユーザーは、必然的にN-VANを選ぶ。ハイゼットキャディーと違って、自社にハイゼットカーゴのような競争相手がいないことも、N-VANが堅調に売られる理由だ。
ハイゼットキャディーは、率直にいえば、ウェイクの後席を省いて軽商用バンに仕上げたクルマだった。ウェイクやハイゼットカーゴでは得られない「これが欲しい」と積極的に選ばせる魅力を備えていなかった。堅調に売るには、単純に機能を差し引くだけではダメで、新しい付加価値を与える必要があった。
コメント
コメントの使い方