「スカイライン消滅」は否定されたけど… 国産セダンは滅ぶしかないのか?

■セダンのアドバンテージは優れた走行安定性にあり

ノーマルのGT系グレード。パワートレインは3L V6ツインターボエンジンと3.5L V6エンジン+モーターのハイブリッド
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 視点を変えれば、かつてはクラウンにも、セダンと併せてステーションワゴンや2ドアハードトップが用意された。スカイラインには、スカイラインクロスオーバー(海外ではインフィニティEX/QX)もあった。この経緯を考えると、セダンにこだわる必要はないようにも思えるが、SUVに変更すればまったく価値の異なるクルマになる。なぜならセダンボディには、SUVやミニバンでは得られないメリットがあるからだ。

 それは重心の低さだ。

 SUVやミニバンの全高は1550~1900mmに達するが、セダンは1400~1500mmと低い。そうなれば重心も下がる。しかもセダンは、居住空間の後部に独立したトランクスペースを備える。居住空間とトランクスペースの間には骨格や隔壁があり、ボディ剛性を高めやすい。タイヤが路上を転がる時に発生する騒音も、セダンでは居住空間に伝わりにくい。

 これらの特徴は、走行安定性と乗り心地を向上させる。そのためにセダンには、WRX・STIのような高性能スポーツモデルとか、センチュリーに代表される快適性を徹底追求したVIP向けの高級車が用意される。

 セダンの売れ行きは下がったが、これらの価値まで失われたわけではない。メーカーが実用重視の軽自動車/コンパクトカー/ミニバンに力を入れた結果、セダンの商品開発を下げて、売れ行きも低迷させた。ユーザーがセダンを買わなくなったのではなく、メーカーが選ぶ価値のあるセダンを提供しなくなり、不人気のカテゴリーになったのだ。

 セダンの価値が廃れていないことは、メルセデスベンツ、BMW、アウディといった欧州車を見れば良く分かる。今でもセダンが多く用意されて、日本での販売も堅調だ。欧州はほかの地域に比べて高速走行の機会が多く、安全運転には優れた走行安定性が不可欠になる。

 またドライバーが疲労すれば、事故の危険が高まるため、疲れさせない快適な乗り心地も大切だ。欧州におけるクルマの使われ方は、セダンと親和性が高いため、今でもラインナップが根強く残っている。そして内外装の質を高め、液晶メーターなど各種の先進装備も採用して、欧州セダンは高い人気を保っている。

■セダンの需要は決してゼロになったわけではない

BMW3シリーズは2020年1月〜12月の輸入車販売台数で5位にランクイン。ベンツCクラスと並ぶ輸入車の人気モデルとなっている
BMW3シリーズは2020年1月〜12月の輸入車販売台数で5位にランクイン。ベンツCクラスと並ぶ輸入車の人気モデルとなっている

 以上のようにセダンは、SUVやミニバンでは得られない価値を備えるため、消滅させるのは惜しい。改めてセダンの価値を訴求すべきだが、「操る楽しさ」や「フォーマルなデザイン」をアピールしても市場には響かない。どちらも古い価値観になるからだ。

 セダンを訴求する時は、走行安定性を「安全」、乗り心地を「快適」に置き換える。今は衝突被害軽減ブレーキと車間距離を自動制御できる運転支援機能が注目を集め、「安全と快適」に対する関心が高い。そして高速道路上の事故は、背の高いミニバンや軽自動車では回避しにくいが、セダンであれば避ける操作もしやすい。

 いい換えれば、セダンは先進技術の効果を最も発揮させやすいカテゴリーだ。

 セダンのボディ形状は、空気抵抗を低減させる上でも有利だから、環境/燃費性能も向上させやすい。

 従ってセダンの価値観は、環境性能を向上させ、なおかつ自動運転によって交通事故ゼロと究極の快適性を目指す今の自動車進化と完全に合致する。最先端のカテゴリーといえるのだ。

 そこをしっかり訴求できれば、スカイラインを中止したり、クラウンをSUVに発展させる必要はない。100年に一度の大変革期だからこそ、一朝一夕には築けないセダンの価値に改めて目を向けたい。

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