ZFとインテル傘下のモービルアイは2021年5月18日、今後数年にわたり、トヨタの複数の車両向けに先進運転支援システム(ADAS)を開発すると発表した。
現在でもJNCAPで高得点をマークしているトヨタの「トヨタセーフティセンス」だが、この供給によって、どのような進展がみられると予想されるのか? またトヨタの現在位置と、今後どのような影響が及ぼされるのか? 国沢光宏氏が考察していく。
文/国沢光宏
写真/TOYOTA、NISSAN
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■モービルアイの画像処理チップ「EyeQ」はトヨタの食指をも動かした
日産やマツダなどがADAS(自動ブレーキなど先進運転支援機能)のセンサーや制御ユニットとして採用しているモービルアイは、突如「今後数年にわたり、トヨタの複数の車両向けにADASを開発する」と発表した。トヨタといえばデンソーと組んでADASを開発しており、すでに『セーフティセンス』は優れた性能を持っている。
なぜ「系列違い」と思えるモービルアイと組むのだろうか? その前にADAS関連の最新事情を紹介してみたい。
まずセンサーと制御で役割分担がまったく違う。センサーは人間で言えば「目」。カメラであってもレーダーであってもライダー(走査式のレーザー)であっても優れたセンサーなら「よい目」を持つことを意味する。
制御は「頭脳」。優れた目を持っていても、ひと桁の足し算しかできない頭脳だと能力を使い切れない。また、三桁の計算ができても、遅ければ意味なし。優れた目を使い切れる頭脳を持っていなければならない。現在こういったシステムを持っているのは、ボッシュ、コンチネンタル、モービルアイ、Nヴィデア、日立、オン・セミコンダクターなどなど。
ちなみに、高い評価を得ている新世代アイサイトのカメラはオン・セミコンダクターで制御がザイリンクス。
現在のセーフティセンスの場合、ソニーのカメラとデンソーのレーダー&制御を使っている。基本的に自動車メーカー自ら開発するハードやソフトじゃないため、部品メーカーとしちゃ重要な次世代製品という位置づけ。
わかりやすく言えばタイヤのようなもの。システムメーカーにオーダーを出し、要求レベルに見合ったスペックで作ってもらう。とは言え、ADASの黎明期はシステムメーカーにクルマ作りのノウハウがなかったため、独占契約して共同開発する傾向にあった。アイサイトと日立の関係を見ると、正しく共同開発というイメージ。
しかし、システム開発にはお金がかかる。電子製品の常で、量産効果によりコストダウンしていく。
前述の日立でいえば、スバルだけだと次世代システムを作る開発費を捻出しにくい。スバルとしても日立へ支払う金額が増えていくと、気軽に次世代システムの開発に着手しにくくなる。アイサイトの開発が一時期滞ってしまった要因だと聞く。
一方、ボッシュやコンチネンタルなどは自社でセンサーも制御も開発し、自社開発が出来ない自動車メーカーにシステムとして買ってもらうビジネスを考えた。スズキやホンダなどはシステムすべてを買っている。自動車メーカーからの要求に応じて制御を替えているだけ、と考えていい。そんなことから自動車メーカーの目標に届かないケースも多い。
ホンダは黎明期に自社開発したものの途中で方針転換し、まずはボッシュからシステムとして購入した。残念ながら購入したそれは充分ではなく、私のようなメディアからも厳しく書かれてしまうことになる。そんなホンダはフィットやヴェゼルなど新しいモデルに、モービルアイを搭載したヴァレオ製の単眼カメラシステムを採用して現在好評だ。
参考までに書いておくと、現在実用化されているモービルアイの最上級システムは日産『スカイライン』やBMW『3シリーズ』など採用している3眼カメラ+レーダー。2番目のシステムが日産の単眼カメラ+レーダー。ホンダのシステム、単眼カメラのみとなっている。お金を掛ければ性能が買えるワケ。以上、ADAS事情を簡単に紹介した。
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