■シビックの「転換」を決定づけたハッチバック廃止&3ナンバー化
シビックの人気低迷を決定的にしたのは、2005年に発売された8代目だ。ボディは3ナンバーサイズのセダンのみになる。しかもフロントウインドウを前側に張り出させたボディは、ボンネットが短く見えるから、日本のユーザーには好まれない。発売直後の2006年でも、1か月の登録台数は1000台少々であった。
以上のようにシビックは、国内で3ドアハッチバックを扱わなくなった7代目から人気を下降させ、コンパクトカーの初代フィット、ミニバンのストリームやステップワゴンのヒットが追い打ちをかけた。売れないために、ますます冷遇され、2010年には国内販売の終了に至っている。
この後の復活も場当たり的だった。現行シビックの発表は2017年7月(発売は9月)だが、この時期には人気車のN-BOXが現行型に一新され、先代フィット、現行ステップワゴン、現行シャトルのマイナーチェンジも実施された。
販売店が多忙な時期にシビックを復活させたから、注目を集められず埋もれさせてしまった。
これら一連の流れの背景にあるのは、国内市場に対する熱意と戦略の乏しさだが、ホンダの場合は別の事情も絡む。
ホンダの過去を振り返ると、1970年代から1980年代はシビックやシティ、1990年代にはオデッセイやステップワゴン、2000年代に入るとストリームやフィット、2010年代はN-BOXという具合に、新しいコンセプトを備えた売れ行きの伸びる新型車を定期的に投入してきた。
これはホンダの素晴らしい特徴だが、優れた商品力に戦略が追い付かず、いつも振り回されてしまう。オデッセイがせっかく好調に売れても、後発のステップワゴンが登場すると需要を奪われる。
そのステップワゴンも、フィットがヒットすると、売れ行きに陰りが見えてしまう。そしてフィットも、2010年代にはN-BOXに需要を奪われた。
このホンダ車同士で喰い合う連鎖が生じて、人気が長続きしない。しかも戦略の乏しい成り行き任せだから、コンパクトで価格も安く、空間効率の優れた実用的な新型車が登場すると、それまでの主力商品は需要を奪われてしまうのだ。
その結果、最終的に行き着いたのが軽自動車のN-BOXだ。2021年1~6月に国内で新車として売られたホンダ車の内、N-BOXだけで35%を占めた。軽自動車全体なら57%、そこにフィットやフリードを加えると80%近い。
このように今のホンダでは、軽自動車とコンパクトな車種だけが好調に売られ、国内販売を支えている。
ただし、軽自動車の開発力や販売力は、総合的に見るとスズキやダイハツが上手だ。軽自動車の販売1位はN-BOXでも、ほかの車種は売れていない。
N-WGNの売れ行きも大幅に下がる。その点でスズキは、ハスラーやアルト、ダイハツではムーヴキャンバスやタフトもそろえて、トータルで売れ行きを伸ばしてホンダの軽自動車販売は3位になる。
しかも最近は、半導体の不足も重なってホンダ車の売れ行きが下がっている。2021年1~6月の国内販売順位は、1位:トヨタ、2位:スズキ、3位:ダイハツ、4位:ホンダ、5位:日産だ。ホンダでは売れ筋車種が小型化/低価格化しており、販売総数も下がっているからメーカーにとっても辛い。
■古豪シビック復活への期待
今の状況を考えると、新型シビックの売れ行きは従来通りだろう。コロナ禍の影響を受ける前の2019年において、シビックの国内登録台数は、1か月平均で約900台(ハッチバック+セダン+タイプR)であった。ハッチバックに限ると約540台だ。
それでもシビックは設定すべきだ。6速MTの販売比率はハッチバックでも約30%と高く(マツダ3は10%以下)、シビックの根強いファンが購入していることがわかる。シビックが比べて選ばれる対象だったら、6速MTの販売比率はここまで高まらない。
ホンダはシビックの売れ行きと熱意のあるユーザーに、もっと感謝して目を向けるべきだ。タイプRに限らず、1.5LターボにモデューロXを追加するなど、ユーザーニーズに沿ったバリエーション展開を考えたい。
現行タイプRも優れたスポーツモデルだが、往年のそれを知るユーザーにとっては、動力性能が過剰な印象も受ける。一般道路の峠道などで、性能を相応に出し切って走るなら、1.5Lターボにライト感覚のチューニングを施したモデルがあると喜ばれる。
新規投入されたコンパクトな車種に需要が流れていくホンダ車のジンクスは、シビックで打ち破りたい。今のダウンサイジングのムーヴメントを食い止められれば、クルマ好きも含めて、皆が笑顔になれるホンダ車を取り戻せるに違いない。
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