■欧州グリーンディールとESG投資が、EVをカネになる「機」に変貌させた
そんな状況が、2018年から2019年頃にかけて大きく変わる。
ただし、それは次世代バッテリーの開発に目途がたつなどの技術的な進化や、充電インフラを一気に普及させる政策が掲げる国が増えたといった、日系自動車メーカーが想定しやすい要件ではなかった。
ゲームチェンジャーは、ESG投資なるものだったのだ。
従来、企業の評価は売上高や営業利益などの財務情報を主体としており、それによって株価が上下する。一方、ESG投資とは財務情報に加えて、環境(エンバイロンメント)・社会性(ソーシャル)・企業統治(ガバナンス)が企業の評価を左右するものだ。
最近、SDGs(国連の持続可能な達成目標)という考え方について、テレビやネットでも話題になることが多いが、ESG投資はSDGsとセットで捉える場合が多い。
そうした投資マネーが世界の株式市場を駆け巡るようになる。見方を変えると、EVなど本格的な電動車が投資という名目で”金になる日”がやってきたのだ。
そもそも、自動車メーカーにとって「EVは儲からないビジネス」と言われてきた。
駆動用の電池を筆頭に、EVを構成する部品は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン関連の部品と比べるとかなり割高。しかも、航続距離を稼ぐには搭載電池容量を大きくする必要があり、さらにコストが上がる。そのほか、充電インフラが少なく、充電時間も長いなど、EVは内燃機関車と比べてメリットよりデメリットが多いという印象が強かった。
いや、そうしたEVの特性はいまでも基本的には変わっていない。
ところが、EVを計画的に生産することが株価への好材料になるというESG投資の発想によって、結果的に「EVは儲かるビジネス」という認識に”すり替わった”といえる。
こうした欧州での動向を踏まえて、トヨタは2019年6月「EVの普及を目指して」という記者会見を開き、2017年に示した電動化ロードマップ「2030年時点でHV(ハイブリッド車)とPHV(プラグインハイブリッド車)を合計450万台、EV/FCVを100万台)というシナリオを2025年に5年前倒しするという大胆な軌道修正をした。
だが、そのシナリオすら通用しない事態となった。
ESG投資という経済のドライバーと環境問題とのバランスをとった戦略が「欧州グリーンディール」だ。欧州連合(EU)の執務機関である欧州委員会(EC)が2019年12月11日に発表した。
欧州グリーンディールが表舞台に出たことで、欧州自動車メーカー各社はEVシフトへ一気に舵を切った。
その勢いは、フォルクスワーゲングループが2016年に掲げたEVシフトのスピードを凌ぐもので、ボルボやジャガーが早期に全モデルEV化によるEVメーカーに転身するという流れを生む。
そしてECは欧州グリーンディールの具体的な目標として、2035年には欧州内で実質的にハイブリッド車を含めた内燃機関搭載の新車販売を禁止すると発表したのだ。
それに添うように、世界自動車産業界のベンチマークというべきメルセデスベンツが2030年を見据えて全モデルEV化への準備に入ったことを明らかにしたものだから、トヨタを含めて日系メーカー各社は早急に電動化ロードマップを修正する必要が出てきたといえる。
コメント
コメントの使い方