今やメーカーが推奨するオイル交換時期は、通常走行の場合、トヨタ車を例にとるとノンターボ車は1万5000kmまたは1年、ターボ車は5000kmまたは6ヵ月と推奨されている。
またバッテリーの寿命に関しても、交換の目安は2~3年といわれているが、サルフューションを防ぐパルス補充電をすることで5~8年くらい使えるようになってきた。
いわば、メンテナンスフリーの時代になっているが、それでも走り方によっては通用しない場合もある。それが、35℃以上を超える酷暑になってくると話は違ってくる。
そこで、厳しい暑さのなか、やってはいけないクルマの寿命を短くする運転&行為はどんなものがあるのか、モータージャーナリストの高根英幸氏が解説する。
文/高根英幸
写真/Adobe Stock(トビラ写真/Piotr@Adobe Stock)
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■メンテナンスフリー時代だからといって甘く見てはいけない
お盆休みの帰省は自粛された方も多いだろうが、長いお休みだけにどこかへは出掛けたくなるというもの。しかし都内県内の移動であっても、この時期は幹線道路が渋滞するのが常識だ。コロナ禍で以前よりは人出は減っているものの、人が集中するところは変わらないから、渋滞も1、2割減る程度ではないだろうか。
ということは、酷暑の渋滞でクルマは悲鳴を上げることが予想できる。なぜなら最近のクルマは非常に高い精度で作られ、メンテナンスフリーを実現しているからだ。
メンテナンスフリーであることから、酷暑でもそのまま使い続けてしまうことにより、クルマは様々な部分にダメージがおよび、それが蓄積されていくことである日、一気に崩壊するのである。
昨年までは問題なく真夏の渋滞を乗り越えてきた愛車でも、そのダメージが蓄積されており、今年の酷暑がトドメを刺すことになる、ということだ。
ちょっと古いクルマが高速道路の路肩で立ち往生しているのは、その日にいきなり部品が壊れたのではなく、以前から少しずつ弱っていたのである。
■どんな部分、部品が暑さに弱い?
特にエンジンルーム内は通常でも高温となる領域が多く、酷暑によるダメージも集中しやすい。自動車メーカーはメンテナンスフリーを実現するために、あらゆる気候を想定して各機能の耐久性をテストして信頼性を確保しているが、それでも40℃に迫る外気温のなか、長い渋滞に遭遇するというのはクルマにとっては想定外の過酷さだ。
なにしろ渋滞中のクルマの周囲の気温は通常の外気温よりもはるかに高い。フロントグリルの前の気温は50℃を超えることもザラにあるのだ。
近年のエンジンは、燃費性能を追求するためにエンジンオイルの低粘度化が進んでいる。オイルの粘度が低いということは、油膜が薄くなるということだ。油膜が薄いということは、エンジンの慴動部のオイルクリアランスが小さくなり、部品の工作精度を高めて、より緻密な構造になっている。
ということは、それだけエンジンオイル内の不純物であるスラッジに弱くなっている。油量が少なく、粘度も低いオイルを供給するためにエンジン内部のオイルの経路も細くなっており、スラッジが溜まるとオイルを隅々まで適正油圧で供給する能力が低下してしまうのだ。
スラッジの原因はオイルに含まれる添加剤が劣化したもの。じゃあ添加剤を減らしたり、なくせばいいのでは、と思うかもしれないが、低粘度でも潤滑性能を確保したり、粘度の安定性を保ち、エンジン内部の汚れを吸収してそれを分散させることでオイルの性能低下を防ぐ清浄分散性などを実現するためには、添加剤は不可欠なのだ。
またオイル交換のサイクルが長いのであれば、毎回オイルフィルターを交換するほうが、エンジンにとっては望ましい。
スラッジがフィルター内に増えて目詰まりすると、フィルターの濾紙を通過せずにバイパスされてしまうことになり、オイル内の不純物はエンジン内部に循環して、様々な部分に蓄積したり、摩耗で発生した金属粉が再び部品の間に入り込んで摩耗を進めてしまうからだ。
愛車は新車で買ったばかり、あるいはまだ新車購入から3年以内だから、大丈夫だろうというのは大間違い。35℃を超える猛暑日、ストップ&ゴーの多いノロノロ運転、エアコンをガンガンかけている状況……。エンジンオイルを1年以上(または1万㎞走行)していないうえに、こんな走り方をすると、クルマの寿命を短くすることになる。人間が暑さに参っている時は、クルマも当然参っているのだ。
エンジンオイル交換時期は、通常の場合。1年または1万5000kmの早いほうと推奨されているが、酷暑日などの走行は、専門用語でシビアコンディションと呼ばれている。
シビアコンディションの代表的なものとしては、エンジンの負荷が大きい上り坂の走行が多い、雪道での走行が多い、8km以下を基準とした近距離の使用が多い、30km/h以下の低速走行が多い、アイドリングが多い、といったものが挙げられる。
特に酷暑日に渋滞やストップ&ゴーの多い街中での走行の場合、エンジンオイルの温度が適温となる80度以上まで上がりにくい。するとエンジン内部で水蒸気が起き、その水蒸気は油温が上がらないと蒸発せずにエンジン内部に残るため、エンジンオイルの劣化を早めてしまう。
こうしたシビアコンディションの場合、エンジンオイルの交換サイクルは、通常の半分の走行距離、期間となる。通常が1年または1万kmの場合、半年または5000kmとなる。
エンジンオイルの劣化、量の減りはエンジンをジワジワと摩耗させる。したがって、以前から推奨しているように、帰省や行楽などでこの時期、比較的長距離を走るのであれば、その前にオイル交換をすることだ。
2、3ヵ月前にオイル交換したというのであれば、交換の必要性はないだろうが、量と汚れ、粘度の変化を確認してからドライブに出かけ、夏が終わったら早めに交換することをお勧めする。
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