■役目を終えたウィッシュ “勝負”には勝ったが…?
一時は一世を風靡したとも言えるトヨタ ウィッシュが廃番となった理由。それは「低床ロールーフタイプのミニバンが売れなくなったから」ということでしかありません。
「箱型の車」を欲する人のうち、より実用性や居住性を重視したい人は「背の高いスライドドア式のミニバン」を買うようになり、ロールーフミニバンの売りのひとつであった「走りがいい」という部分も重視したい人は、ある意味中途半端な存在であるロールーフミニバンではなく、大躍進を始めた「SUV」を選ぶようになっていきました。要するに消費者の嗜好が変わったということです。
また消費者の嗜好が変わったからこそ、まずは2014年にホンダ ストリームが廃番となり、ストリームに対抗する必要がなくなったトヨタがウィッシュという刀を鞘に収め、ハイブリッドであるプリウスαに一本化した――という見方もできるかもしれません。
いずれにせよ「ジャンルが死んだから廃番になった」というだけで、ここについては特に語るべきものはありません。
しかし筆者が相変わらずトヨタ ウィッシュについて気になっているのは、「ところで今後、豊田章男社長はどうするだろうか?」ということです。
「他社が発明したモノであっても、大ヒットして新しい市場を作ったのであれば、そこに追従して類似の商品を作る」というのは、カッコいいやり方ではないかもしれません。
しかし、生き馬の目を抜く資本主義社会の中ではきれいごとばかりも言ってられませんので、初代ストリームを真似て初代ウィッシュ作り、ストリーム以上に売れてしまったトヨタのことを責める筋合いはありません。
しかしその行為は「あまり美しくない」とは言えるでしょう。
とはいえ現在のトヨタを率いている豊田章男社長は、もちろん企業の責任者としてガンガン利益を追求しているわけですが、同時に、章男氏は「ビジネスの美しさ(または正しさ)」にもこだわってらっしゃるようにお見受けします。
「利益を追い求めるのは企業として当然だが、それは美しく正しいやり方で実現されなければならない」と、豊田章男社長がどこかでおっしゃったわけではありませんが、最近のトヨタから発売される車や、さまざまな企業活動のことを見ていると、どうもそのようなことも考えているのではないか……と思うのです。
以上は筆者の勝手な妄想ですが、仮にその妄想が正しかったとして――もしも「初代ウィッシュ的な開発案件」が今後のトヨタ社内で上がってきたら、章男社長は、そのプロジェクトにGOサインを出すのでしょうか? それとも「再考すべし」と言うでしょうか?
スズキ ソリオとトヨタ ルーミーの件はありますが、あれはまぁダイハツの車ですので、純粋なトヨタ車として「初代ウィッシュ的な車」を今後のトヨタが発売するかどうかに、個人的な興味を抱いています。
そしてそういった車が発売されないことを、下町の片隅から地味に祈っているのです。
■トヨタ ウィッシュ(初代)主要諸元
・全長×全幅×全高:4550mm×1695mm×1590mm
・ホイールベース:2750mm
・車重:1300kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、1794cc
・最高出力:132ps/6000rpm
・最大トルク:17.3kgm/4200rpm
・燃費:14.4km/L(JC08モード)
・価格:189万8000円(2003年式 X Sパッケージ)
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