海水に浸かった車両には近づくべからず 震災時の経験と対処法

■炎上し始めた車両からの救出法

車両火災の一時的鎮静化方法(筆者作成)
車両火災の一時的鎮静化方法(筆者作成)

 図の「車両火災の一時的鎮静化方法」にあるように乗用車で主に出火する場所はエンジンルームか燃料タンクの上にあるトランクルームである。内部で火災が発生しているボンネットやトランクを決して開けはならない。

 図「燃焼の3要素」のように、火は酸素と温度と可燃物が揃うことで燃え続ける。密閉された空間での火災では酸素が不足し不完全燃焼によって火の勢いが衰え、可燃性の一酸化炭素ガスが溜まった状態になる。この状態で窓やドアを開くなどにより、密閉空間に急速に外気が入ると、熱された一酸化炭素に酸素が結合する二酸化炭素への化学反応が急激に進み爆発(爆燃)を引き起こす“backdraft”現象が発生するおそれがあるためだ。

燃焼の3要素(筆者作成)
燃焼の3要素(筆者作成)

 エンジンルーム内の火災を完全に消火することはできないが、車内に取り残された乗員を救出するための時間の余裕を獲得できる程度に火勢を弱めることはできる。

 手順は「孔を開けて密閉空間に消火剤を噴射する」だ。エンジンルームの場合はエンジンを取り囲むようにボンネットに4カ所孔を開け、その孔に消火器のノズルを差し込み、車体の下から消火剤が出るまで充分に噴射する。ボンネットに孔を開けるのは通常、フーリガンツールと呼ばれる破壊工具が使用されるが、ツルハシでも同じことができる。

 沿岸部の車両には片手で扱えて分解できるツルハシを車内に備えておくことが望ましい。破壊工具のスパイクを用いてボンネットに孔を開けるが、静音設計の乗用車ではボンネットの裏側に内張りが施してあることがあるので、消火剤がボンネットの裏側と内張りの間に噴射されることの無いように、確実にボンネットを貫通させることが重要だ。

 消火器を使用する時は、消火剤がエンジンルームの下から噴出しているかを確認する。トランクルーム内の火災はテールランプを破壊すれば、配線を通す穴などが設けられているので、そこに消火器のノズルを差し込む。

 火は酸素と温度と可燃物が揃うことで燃え続ける。図「燃焼の3要素」のように、自動車内に燃料が残っている場合は可燃物として気化した燃料が存在しており、火災により熱せられた車体の温度も高い。この方法はボンネットやトランクを開けずに消火剤を入れることで酸素が欠乏している状態を維持しているに過ぎないため、完全に消火することは難しく、再び火の勢いが強まるおそれがある。乗員を救出する時間稼ぎために一時的に火を弱めるための方法であると認識すべきだ。

■熱傷について救急隊には「手のひら何個分か」と口の周りについて伝える

 熱傷(やけど)は、皮膚の表面が赤くなる程度であれば日焼けと変わりないが“水ぶくれや変色している部分”の面積が体表面全体に占める面積の10%以上に及ぶ場合は直ちに病院で治療を受けなければならない。熱傷面積を算出する方法として成人では「9の法則」がよく知られる。しかし、小児では「5の法則」になったりと記憶の維持や実際の計算は専門職以外は難しい。そこで、手掌法(しゅしょうほう)という本人の手のひらの面積が、体表面面積のおおよそ1%に相当することを憶えておく。

 傷病者自身の手のひらを基準に、素早く熱傷面積を割り出す。救急隊には「手のひら何個分」と伝えればよい。手掌法は誤差が男性で20%、女性で30%あるが、火災現場では厳密さよりもスピードを重視し、手のひら10個分以上の面積に水ぶくれや変色がある場合は危険と判断する。火災現場は危険であること、他にも傷病者が発生していることを忘れてはならない。

皮膚構造と熱傷深度区分(筆者作成)
皮膚構造と熱傷深度区分(筆者作成)

 図「皮膚構造と熱傷深度区分」のように熱傷は、その深さによってI~III度まで3段階に分類されている。熱傷の深さは「温度×熱の作用した時間」で決まる。高温ではなくても、長時間接触していると熱傷になる。いわゆる「低温やけど」だ。長い間歩いているうちに足にできる水ぶくれも、靴と足の間に起きる長時間の摩擦熱によるものだ。車内でもトランスミッションの真上など低温やけどになりやすい場所があるので注意する。

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