■重症度の判断
体表面の熱傷面積に関わらず、顔面や口の周りが焼けている場合は気道熱傷のおそれがある。かすれ声や息苦しさなどがないか観察する。熱い空気を吸い込み気道が腫れてしまうと空気の通り道が塞がり呼吸できなくなってしまうため一刻を争う。
手、足の関節部分、股間の熱傷にも注意する。関節部分の熱傷が原因で後に動きが悪くなり生活に影響することがある(野口英世の左手)、股間の熱傷は排尿困難、排便困難などの後遺症を残すおそれがあるため、早い段階からの適切な治療が必要だ。
救急処置
衣服の下に熱傷を負っている場合はすぐに脱がせず、まず水をかけて冷やした後に衣服を脱がせるか切り取る。衣服が皮膚に貼り付いている場合は、はがさずにそのままの状態にする。熱傷部位には原則として軟膏や消毒薬を用いずに病院へと運ぶ。これらを用いて熱傷部位が変色すると、先述の重症度を正確に判定できなくなるからだ。時間が経つにつれ腫れてくるので、指輪や腕時計、ベルトなどは早期に外しておく。
III度熱傷では、皮膚が白や茶色に変色し、場合によっては炭のようになる。III度熱傷では痛覚神経も損傷しており、本人が痛みを感じていないこともある。
◆水ぶくれ、変色の熱傷範囲が10%(手のひら10個分)程度の場合
水道水や湧き水など清潔な流水があれば、熱傷を負った直後に、患部を流水で30分以上、または痛みがとれるまで冷却を続ける(流水には患部を洗浄する効果もある)。傷口からの感染のおそれがあるため、川の水などは避けること。同様に感染予防のため水ぶくれを潰してはならない。
清潔な流水が無い場合は、熱傷部位をペットボトルなどの飲料水で洗い、清潔なガーゼで余分な水分を拭き取ったのち、清潔なビニール素材(食品用ラップフィルムや食品パッケージの内側、保温用レスキューシートなど)で熱傷部位を覆い、その上から濡らしたタオルを当てるなどの気化熱により冷却を続ける。ガーゼなどの水分を吸収する素材を患部に直接当ててはならない。患部に貼り付いてはがれにくくなるからだ。
◆水ぶくれ、変色の熱傷範囲が20%(手のひら20個分)以上の場合
致命的である。 冷却は低体温と感染に注意しながら行う。清潔な流水がある場合は、冷却を2分以内にとどめ、全身の保温を行う。熱傷部位を清潔なビニール素材で覆った上から清潔なシーツで傷病者を包み、その上から毛布やレスキューシートなどで保温する。
◆熱傷で失われた水分の補給
傷病者自身が座って飲み物を摂れる場合のみ、温かい飲み物を飲ませる。寝ながら飲むと誤嚥をおこし肺に入ったり、吐き出すおそれがあるからだ。「熱中症を防げ!! 調子が悪くなったら飲むのは水よりオレンジジュース」で述べたようにORS「経口補水液」を用意できるのであれば、熱傷で失われた水分補給を水の25倍のスピードで行うことができる。
筆者:照井資規
東日本大震災(2011年3月11日)発災時、陸上自衛隊の医療職の幹部である「衛生官」であり、岩手駐屯地、第9戦車大隊の医療部隊の隊長である衛生小隊長であったため、発災直後に出動した災害派遣時にて津波災害に被災した自動車の様相を数多く目にした。その翌年、ITLS (International Trauma Life Support) 国際標準外傷救護初療教育プログラムAccess (交通事故救出救助研修)インストラクターとなる。本記事はその内容に準拠している。
医療監修
高須 克弥 医学博士 医療法人社団福祉会高須病院理事長
菅谷 明子 医師 日本救急医学会 救急科専門医 予備自衛官
医療法人社団 明生会 東葉クリニック エアポート院長
藤田 千春 看護師 予備自衛官
招集を受け、台風19号災害派遣
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