■そして結論 鈴木直也の考察
いわゆる「自動運転」について、皆さんはどんなイメージをお持ちだろう?
ここで、自動運転にわざわざカギカッコをつけたのは、それにはピンからキリまであるから。
クルマに詳しい方なら、「自動運転と言っても、クルマ側に制御の主導権が移るのはレベル3からでしょ?」と鋭い指摘が来そうだけど、実はそこにこそ自動運転技術の最重要ポイントがある。
米国SEAなどが定義した業界共通の基準によると、運転の自動化には0~5のレベルがあって、レベル2までは人間の運転を支援する機能。
つまり、最近よく聞くADAS(高度運転支援システム)のことで、これを自動運転と言っちゃうのはミスリードと言わざるを得ない。
では、「じゃぁ、レベル3からが本当の自動運転なの?」と問われると、実はそれもノー。
レベル3は所定の条件を満たした時クルマ側がすべての制御を引き受けるが、その条件から外れた時にはドライバーはいつでも運転に復帰できるようスタンバイしなければならない。あくまで「条件付きの自動運転」なのだ。
「なーんだ」と言うなかれ。
制御がクルマ側に移るということは、つまり事故などの責任もクルマ側が引き受けるわけで、自動車メーカーの立場で考えれば、巨大なリスクを背負うということになる。
だから、レジェンドのホンダセンシングエリート搭載モデルが、自動運転レベル3の機能を搭載して発売に踏み切ったのは、もの凄い快挙。
100台限定ではあるけれど、ここ最近のホンダ車のなかでは技術的に最も攻めたクルマだと思う。
こんなことを言うと、「でも、シリコンバレーでは完全自動運転の実験車を走らせてるんでしょ? 今さらレベル3程度で喜んでちゃガラパゴスなんじゃないの?」と突っ込まれそうだけど、そういう人は試作車・実験車と市販車・量産車の間にどれだけ大きなギャップがあるかを理解していない。
「市販を前提とした自動運転車」に世界でいちばんマジメに取り組んでいるのはトヨタだと思うが、彼らが熱心に取り組んでいるのは、最高速度を15km/h程度に抑えた低速モビリティ。
今まさにオリンピック選手村で実験中のe-Paletteがそれだ。
人間の生命を預かる自動車という商品はそんなに安易なものじゃないし、安全にかかわる技術は最も重要なコア部分。
「最悪の事態が起こっても死亡事故に至らないように配慮しないとレベル4以上の自動運転車を実用化するのは難しい」。おそらく、トヨタはそう考えているのだと思う。
こういうトヨタらしい慎重なスタンスは、ミライのアドバンストドライブ仕様にも反映されている。
ミライ・アドバンストドライブ仕様ではライダー(レーザービームを使った3Dスキャナ)を搭載するとともに、AIソフトウェア処理の実行用にNVIDIAのプロセッサを載せるなど、ハード・ソフトともに最先端。
レジェンドと同様、市販車としてはかなり「攻めた」スペックと言っていい。
にもかかわらず、今回の仕様では自動運転レベル3の機能は搭載せず、制限速度+15km/hまでのハンズオフ運転支援など、いわゆるレベル2+にとどめている。
これは、事故の責任問題などを考えるとレベル3は時期尚早という判断があるのだろうが、それと同時に商品としてのコストパフォーマンスまで考慮しているところがトヨタらしいしたたかなところ。
レジェンドのホンダセンシングエリートが前後合計5個も大盤振る舞いしているライダーは、ミライ・アドバンストドライブはフロント1個のみ。
とりあえずのゴールをレベル2+に置いたことで高価なセンサー類などのコストを省き、ベース車プラス55万円のアップで購入できるよう配慮されている。
最初はレベル2+でコストを抑えた商品として普及を目指し、将来コストが下がった段階でハード/ソフトともにアップグレードによってレベル3に対応する。
エコカーの時と同じく、トヨタは自動運転技術も「数が増えないと意味がない」と考えているわけで、今の段階でそこまで配慮しているのは凄いと思う。
ぼくらは今回、レジェンド、ミライ、スカイラインの3台を集めて、日本車の自動運転技術がどこまで進んでいるのかを検証するためにこの企画を考えたのだが、やはり日本の自動車メーカーの底力は凄いと、あらためてそう実感した取材でした。
コメント
コメントの使い方