■映画が有名にした幻の車『デロリアンDMC-12』
そして、彼らと同じように熱い注目を浴びたのがタイムマシンに使われた車、”デロリアン”だった。映画のオリジナルと思っている人も案外多いようだが、ちゃんと実在する車である。
当初の脚本ではタイムマシンは冷蔵庫だったといわれているが、それじゃあかっこ悪いし、子どもが真似して冷蔵庫に入るのも困るというのでデロリアンに変更したという。
劇中でも、初めてタイムマシンを目にしたマーティが「なぜデロリアン?」とドクに尋ねると「どうせ作るならかっこいいほうがいい」と返している。
もうひとつの理由としては、1955年にタイムスリップしたときにデロリアンが宇宙船と間違えられるのだが、その設定にデロリアンの特徴のひとつであるガルウィングドアがふさわしかったからとも言われている。
そこでデロリアンである。本作で使用されたデロリアンDMC-12は、かつてゼネラルモーターズでポンティアックGTO等の開発に携わっていたジョン・デロリアンが創り上げた車。
彼は、独立して自らの名前を冠したデロリアン・モーター・カンパニー(DMC)を設立。セクシーなスポーツカーを目指して1981年に製造したのがデロリアンDMC-12だったのだ。
デザイナーを務めたのは初代VWゴルフや初代フィアットパンダ、初代いすゞピアッツァなど数多くの名車を手掛けたジョルジェット・ジウジアーロで、メカニカル設計はロータス・カーズが務めている。
「12」という数字は、予定されていた1台の値段、1万2000ドルにちなんでいるというが、最終的な販売価格は2万5000ドル。現在の価格にするとおよそ6万9000ドル(およそ7000万円)というから簡単に購入できるはずもない。
結局、その価格のせいも手伝って売れ行きは伸び悩み、さらには政治的な問題も山積み。最終的にはジョン・デロリアン自身が麻薬の取引でFBIに逮捕される事態にまで陥り、あえなく会社は倒産。デロリアンはこのモデルのみが作られたことになる。
デロリアンの破天荒な人生は、『ジョン・デロリアン』(18)という伝記映画や、Netflixのドキュメンタリー『ジョン・デロリアン:世界を魅了した伝説の男』(21)に詳しい。
■文字通り時代を超えて愛される車となったデロリアン
デロリアンはシリーズ3本すべてでタイムマシンとなり、時代を走り抜けているが、本作にはそのほかにも印象を残す車がある。マーティの憧れの車、トヨタのピックアップトラック、ハイラックスと、どの時代でも彼の宿敵となる、いじめっ子ビフの愛車だ。
『BTTF』で、マーティがため息まじにり見つめるハイラックスはカスタマイズされたもので、色は漆黒のハイラックス4×4 SR5 Xtra。どうもマーティは日本製品のファンらしく、車はトヨタ、腕時計はカシオ、未来のマーティは富士通に勤めているという設定だったりする。
また『PART3』でマーティが西部劇時代の過去に行ったときは、1955年から来たドクがデロリアンを修理するときICチップを手に「Made in Japanの部品なんて」と言えば「日本の製品は最高だよ」と発言。
ちゃんと“日本ファン”というキーワードが3作通して効いている。もちろん、製作当時の80年代後半は“Made in Japan”が注目されていた時代でもあったからなのだが。
もうひとりのビフのほうは、各時代でマーティや彼の父親、先祖や祖先をいじめまくり、最後には天罰が下されるという設定。
車が登場するのは『BTTF』で、高校生のマーティの父親をいじめるビフの愛車は46年のフォード・スーパーデラックス・コンバーチブル。この車に仲間の悪ガキたちを乗せてやりたい放題なのだが、マーティを追いかけている途中、堆肥を積んだトラックに突っ込み、堆肥まみれになるという悲惨な結末が待っている。
ビフはどうでもいいが、車がもったいないと思う人が多い、とても美しいクラシックカーだ。
第1作目の公開以来、35年を迎える『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、いまもさまざまなかたちでイベントが開催されている。先ごろも35周年を記念してコンサートが開かれることにもなっていた。
それとともに忘れられない車となったのがデロリアンである。デロリアンと言う車名がみんなに憶えられ、ジョン・デロリアンの半生がドキュメンタリーや伝記映画になるのも、すべては『BTTF』シリーズのおかげ。
実際、1作目公開後、ジョン・デロリアン自身がゼメキスとゲイルに送った手紙には「私の車を不滅にしてくれてありがとう」と書かれていたという。本当に“不滅”になってしまったということだ。
●解説●
普通の高校生マーティ・マクフライのささやかな悩みは家族のこと。上司に頭が上がらない父、アル中の母、刑務所にいる叔父さん、兄妹もどうもサエない。
そんなとき、親友の変人発明家ドクがタイムマシンを発明し、過去へタイムトラベルするという。その実験に立ち会ったとき、ひょんなことから自分のほうが過去に行ってしまったマーティ。1955年のそこには、高校生の父と母がいた!
スティーブン・スピルバーグに気に入られたロバート・ゼメキス&ボブ・ゲイルのコンビが『抱きしめたい』(78)、『ユーズド・カー』(80)に続き、スピルバーグ製作で作った3本目の作品が『BTTF』。
冒頭は無数の時計が並んでいるドクの家から始まるのだが、そこにスピルバーグが尊敬してやまないスタンリー・キューブリックへのオマージュが隠されている。
その家を訪れたマーティが目にする機器に「CRM114」というラベルが貼られているのだ。これはキューブリックの好きな数字とアルファベットの組み合わせで『博士の異常な愛情』や『時計じかけのオレンジ』、『アイズ・ワイド・ショット』にも登場している。
そんなトリビアがあちこちに仕掛けられている本作。リピーターが多い理由はそこにもある。
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『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
Blu-ray:2,075円(税込)/ DVD:1,572円(税込)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
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