クルマからガソリンは…素人には抜けないし抜いてはいけない理由と事情

 大雨や暴風、地震などの災害が絶えない日本。日頃から災害への備えは万全にしておきたいところだが、そうもいかないものもある。たとえば、ガソリンだ。

 危険物であるガソリンは、危険物取扱者の資格がない者が安易に取り扱うことはできず、気軽に大量保管するわけにもいかない。いざというときに、クルマを動かせないもしくは足りない、発電機を動かすガソリンがない、という事態に陥ってしまう。

 ガソリンスタンドが近くにある、もしくは買いに行くことができればいいのだが、災害の場合そうもいかないこともあるだろう。実際、東日本大震災の際にはクルマからガソリンを抜き、発電機へと移した、ということもあったようだ。

 イザという時に知っておきたい、給油口からガソリンを抜く方法をご紹介しよう。

文:立花義人、エムスリープロダクション
アイキャッチ写真:AdobeStock_ poko42
写真:photoAC、HONDA、ベストカー編集部、AdobeStock

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ガソリンも軽油も有資格者でなければ取り扱うことはできない

 ガソリンは、引火点(火種を近づけた場合に燃え始める温度)が−40度と、近くに火種があればすぐに燃焼する極めて危険性の高い燃料だ。揮発性も非常に高く、給油口から出てきた気体となったガソリンに静電気の火花で引火するおそれもある。

 正しい知識をもって、十分注意して取り扱わなければならないため、冒頭で触れたように、法律によって、危険物取扱者の資格のない者がガソリンを取り扱うことはできないことが決められている。

 最近はセルフスタンドが主流で、ドライバー自らが給油するスタイルが定着しているが、消防法という法律に基づいて安全対策がなされ、安心して給油できるよう工夫されている。

 たとえば静電除去シートの設置や、給油中エンジン停止、追加給油の禁止などがルール化され、音声や画面表示で必ず案内される。農機具や発電機のために「ガソリン携行缶」に給油する場合も、ユーザーが自分で入れることはできず、有資格者のスタッフでなければ入れることはできない。

 ディーゼル車の燃料である軽油は、引火点が45度と、通常の気温や状態では引火しにくい性質ではあるが、ガソリン同様、有資格者でなければ取り扱えない危険物だ。

セルフサービスのガソリンスタンドには「静電除去シート」が設置されている。静電気で引火する危険性を甘く見てはいけない(photoAC_pasta)
セルフサービスのガソリンスタンドには「静電除去シート」が設置されている。静電気で引火する危険性を甘く見てはいけない(photoAC_pasta)

緊急でなければ、自分で取り出すべきではない

 これらのことから、クルマからガソリンを抜きたい、もしくは抜く必要がある際も、緊急でなければ、資格のないユーザーが作業することは、危険なのでやめるべきだ。明日クルマを売るのに満タンに入れてしまった!! などの理由で、ガソリンを取り出そうとして火災を発生させては、元も子もない。

 ただ、どうしてもクルマからガソリンを取り出さねばならない、という非常事態に陥った際、というのを想定して、説明をしていこう。クルマからガソリンを抜くには、給油口に灯油を入れるときなどに使う、ポンプを入れて取り出せばいいのでは?? と思ってしまうところだが、トラックなど燃料タンクがむき出しのクルマを除き、そう簡単にはいかない。

 まず前述の理由で、タンク内で揮発したガソリンが給油口から簡単に漏れ出てこないよう、給油口からタンクまでのルートはクネクネと複雑な構造になっている。ホンダが採用する「センタータンクレイアウト」の車種のように、給油口は後方にあるのにタンクは前席の下、と、タンクまでの距離がかなり長いということもある。また、横転した際に給油口から流出しないよう途中に逆止弁が設けられていることもあるため、灯油用のポンプを使って取り出すのはまず不可能だ。

前席下部に薄型の燃料タンクが配置されているオデッセイ。車両後方に給油口があるため、相当長いチューブでなければタンクまで届かない
前席下部に薄型の燃料タンクが配置されているオデッセイ。車両後方に給油口があるため、相当長いチューブでなければタンクまで届かない

 ホームセンターやカー用品店には、緊急用に、吸込側と排出側がロングで蛇腹になっている給油ポンプが販売されている(最近は見かけない)ので、それをあらかじめ用意しておくのも手である。あるいはエンジンラジコン用の燃料供給チューブと、専用手動ポンプ(電動もあるが、安全のために使用は控えたい)を使うという方法もある。

 ラジコン用はガソリンに耐性がある素材で出来ていてチューブが細く、曲がりくねった給油管でも挿入しやすいだろう。長さは2mもあれば十分だ。ただし、これらの方法でも、車種によっては盗難防止用に金網が途中に設置されている場合があるので、必ず取り出せるわけではない。

灯油用の給油ポンプでは、クルマの給油口に入れることはできない。(photoAC_のののの、)
灯油用の給油ポンプでは、クルマの給油口に入れることはできない。(photoAC_のののの、)

後席シートを外して抜く方法もあるが、整備の知識がない方はやるべきではない

 ほとんどのクルマの燃料タンクは、後席シートの下に設置されている。ひと昔前のクルマには、メンテナンス用にガソリンタンクのドレンが、クルマ下に取り付けられていたが、現在は盗難を防ぐためほとんど取り付けられていない。

 そのためクルマの下にもぐりこんでガソリンを抜き取るということはできず、燃料タンクから直接取り出すには、シートを外してタンクにアクセスするしかない。

 シートを外して内装材をめくると燃料ポンプユニットにアクセスできる小さなフタが取り付けられていることがある。このフタを外し、ユニットを固定しているボルトを外して、隙間からタンク内部に給油ポンプのチューブを挿入するという方法もある。ホンダのセンタータンクレイアウトの場合は、センターコンソールを外し、パーキングブレーキレバーの下あたりに位置する。

 車種によっては燃料供給用のホースや配線などが邪魔になるのでいろいろ外したくなるかもしれないが、むやみに外すとホースからガソリンが溢れ、引火する恐れもあるのでできるだけ外さないようにしたい。もちろん、バッテリーの端子はあらかじめ外しておくことや、タンク内部に異物が混入しないよう注意する必要がある。

 またこの方法でうまくガソリンを抜くことができたとしても、燃料ポンプユニットを戻す際にパッキンがずれてしまうと、隙間から燃料が漏れたり、車内にガソリンの臭いが充満してしまうこともある。

 他にも燃料ポンプに直接電気を流し、ポンプを作動させて中の燃料を排出させるという方法もあるが、どちらの方法も、ある程度クルマの整備の知識が必要であり、あまり知識のない方はやらないほうがいいだろう。安全に関わる部分なだけに、素人判断で安易に手を出すのは危険だ。

燃料ポンプユニットを外す場合にも、まずはバッテリー端子を外す必要がある(photoAC_8maki)
燃料ポンプユニットを外す場合にも、まずはバッテリー端子を外す必要がある(photoAC_8maki)

近所のスタンドの災害対応能力を知っておくほうが、安全で安心

 しつこく言うが、ガソリンは大変危険な物質であり、相当な緊急事態でなければ、クルマからガソリンを取り出そうなどと考えてはいけない。しかし災害の多い日本では、いつどんな事態に陥るかわからない。災害時の緊急用として、いざという時に自分のクルマから燃料を取り出すことができるかどうかを事前に調べておくことは必要なことかもしれない。

 自宅に緊急用として燃料を保管しておくという方法もあるが、ガソリン用と定められた容器でなければならないことと、40L以上のガソリンを保管する場合は消防機関に届け出が必要となり、200L以上の場合は許可も必要となる。

 災害時への備えとしては、ガソリンや軽油の調達は、ガソリンスタンドに頼るとして、自宅近くに、災害対応能力の高い、災害対応型給油所もしくは住民拠点サービスステーションであるかどうかを確認しておくことのほうが、より安全で安心だ。

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