初代登場当時は大いに沸いたNSX
一方のNSXは、バブル景気に湧く1990年に発売。3.0L V6DOHC VTECエンジンをミッドシップにマウントし、世界初のオールアルミモノコックボディ、ワングレードで800万円(ATは60万円アップ)という当時の日本車最高額となる価格設定で、登場当時の衝撃はすさまじいものがあった。「ついに日本にもスーパーカーが誕生した!!」と、クルマファンは大いに沸いた。
繊細なチューニングを施したエンジンを搭載したグレード「タイプR」も登場し、1997年のマイナーチェンジでは、排気量を3.2Lに拡大、その後2001年にはビッグマイナーチェンジをうけるなど、15年以上にわたって生産され進化を続けてきたが、欧州・北米の新しい排ガス規制に対応できないという理由で、初代NSXは2005年に生産終了に。
その11年後である2016年に2代目が登場し、NSXは復活を果たす。ミッドシップレイアウトというNSXのアイデンティティはそのままに、3.5L V6 DOHCツインターボエンジンに3モーターを組み合わせたハイブリッドシステム+9速デュアルクラッチシステムで四輪を駆動する。
シャシーシステムとパワーユニットシステムを統合的に制御するマネジメントシステムも採用し、最新デバイスとホンダの技術を全て結集させ、世界に通用するスーパーカーとして、ファンを驚かせた。登場当時の2370万円という価格もまた、ファンを驚かせた。
クルマ好きの方を見ていなかったNSX
GT-RとNSX、どちらも究極のスーパースポーツカーであり、それぞれに魅力がある。ではなぜ、両者にこれほど大きな違いが生まれてしまったのか。筆者は次のように考えている。
高級スポーツカーというのは、誰でも乗れるクルマではない。高級スポーツカーを手にできるような、経済的な余裕がある方たちとしては、コスパを求めてスペック重視でクルマを選ぶというよりも、デザインはもちろんのこと、ブランドイメージやプレステージ性、個性など人の感性に関わるあらゆる要素を考慮に入れてクルマを選ぶ、という方が多いのではないだろうか。
GT-Rには歴史とドラマがある。レースでの実績、世界的な知名度、匠の技。この要素が複雑に絡み合い、「いつの時代もGT-Rは憧れ」という価値を生み出している。ビジネスのニオイがあまりせず、とにかく性能への強いこだわりが感じられるのだ。
NSXはどうだろうか。初代は中嶋悟やアイルトン・セナといったレース界のレジェンドが開発に関わり、本田宗一郎の存命中に登場した「ホンダの血」が通ったモデルだった。しかし2代目では、それらのドラマは消えていた。
北米をターゲットとしたデザインは、カッコいいのだが、なにか物足りなさを感じ、2000万円オーバーのクルマなのにリアビューは華がなく、「ほれぼれするような美しさ」とは言い難い。メカニズムも斬新さがなく、「エコカー」イメージが付き纏うハイブリッドは、総合的な性能を発揮するのに役立っていても、クルマ好きには響きにくかった。
それでいて価格は初代の3倍程。2代目NSXは、そこまでお金を出してでも「欲しい」と思わせる要素と説得力に欠けていたのだ。せっかく良いクルマなのに庶民には全く手が届かないし、富裕層からもやや距離を置かれてしまう、中途半端なモデルとなってしまったというのが、両車の違いであろう。
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GT-Rは「とにかくドライバーに高性能スポーツカーの素晴らしさを味わって欲しい」という熱意が、スペックを超えて伝わってくる。NSXは初代のような興奮が得られず残念な結果になってしまったが、ホンダには、ピュアスポーツをつくる力が十分にある。いつかまた、初代を超えるような魅力を放つNSXが復活してくれることを心から願っている。
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