■本格的ではなかったからこそ売れていた? サイノスがぶち当たった壁
それなりによくまとまった好デザインであり、走りも、特別スポーティだったわけではありませんが、初代βの5MT車では車重900kgを切る軽量さのおかげで軽快ではあったトヨタ サイノスが、結果として廃番になった理由。
それは、前章でも少し申し上げましたが「世の中の人々の嗜好が変わったから」ということにほかなりません。
初代サイノスが登場した1991年1月は、厳密にいえばバブル経済はすでに崩壊していたのですが、世の中はまだまだ好景気ムードに包まれていました。
そして車もトヨタ マークII的な上級セダンがよく売れ(マークIIは1991年の販売台数ランキング第2位でした)、いい車は欲しいものの「でも4ドアセダンは好まない」という若年層男性は、トヨタで言うとレビンやトレノなど、もっと広く言えばS13型日産 シルビアや、場合によってはR32型日産 スカイラインGT-Rなどを購入していました。
そんな時代にあってトヨタ サイノスは、「そこまでのモノはいらない」と考える人が「とりあえず買う車」として、それなりの受け皿になっていました。
「トヨタ マークIIがいい車なのはわかるけど、そこまで大きくて高くて豪華なやつじゃなくてもいい→じゃあサイノスにしようかな?」
「シルビアやレビンがいいのはわかるけど、そこまで本格的な性能じゃなくてもいい→じゃあサイノスを見てみようかな?」
といった消費行動が各所で普通に行われていたのが、1990年代初頭という時代でした。
つまり当時は「車といえばセダンかクーペ」という時代であったため、決して本格的なスポーティクーペではなかったサイノスも、むしろ本格的ではなかったからこそ、それなりの需要はあったのです。
そして今現在、2021年も、この図式の根本的なところは変わっていません。
現在は「車といえばセダンまたはクーペ」から「車といえばSUV」に変わっていますが、なにも全員がメルセデス・ベンツGクラスやトヨタ ランドクルーザーなどの本格派を買いたいと思っているわけではありません。
「もっと普通の、もっと安いやつで十分」と考えている人だってたくさんいるのです。
そう考える人が「でもとりあえずSUVが買いたい」となった場合の受け皿として、現在の世の中ではトヨタ ライズやヤリス クロス、あるいはちょっと変化球ですがスズキ クロスビーがあったりします。
そして1990年代の初め頃は、「クーペは欲しいけど、本格的なクーペは必要ないと」考える人の数がそこそこ多かったため、トヨタ サイノスもそこそこ商売にはなったのです。
しかし、その後の日本経済の暗黒化やRVブームの到来などにより、「比較的若い人はクーペというボディ形状を好む」という大前提自体が完全に崩れました。
それにより、本格的なスポーツクーペだけでなく、そのサブ階層であるトヨタ サイノスのような「とりあえず乗るのにちょうどいい感じのクーペ」も、連動してほぼ絶滅することになったのです。
■トヨタ サイノス 主要諸元
・全長×全幅×全高:4145mm×1645mm×1295mm
・ホイールベース:2380mm
・車重:890kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、1496cc
・最高出力:115ps/6600rpm
・最大トルク:13.8kgm/4000rpm
・燃費:14.8km/L(10・15モード)
・価格:123万8000円(1991年式 β 5MT)
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