温暖化防止と内燃機関の関係は!? カーボンニュートラルのこれまでとこれから【後編】

■トランプ登場!! またもアメリカのちゃぶ台返しが!!

アメリカの切り札『ちゃぶ台返し』は世界から非難されることとなった。温暖化防止はいまや世界共通の目標となっていたのだ(seanlockephotography@AdobeStock)
アメリカの切り札『ちゃぶ台返し』は世界から非難されることとなった。温暖化防止はいまや世界共通の目標となっていたのだ(seanlockephotography@AdobeStock)

 そんなムードに水を差したのが、ドナルド・トランプの登場だ。

 ようやくまとまった温暖化対策の世界的な合意だったのだが、2016年に政権交代した共和党トランプ米大統領はパリ協定離脱を宣言。またしてもちゃぶ台はひっくり返されたのだ。

 理由は前回と大同小異だが、けっきょくは民主党から共和党への政権交代が最大の要因。「気候変動に関する国連枠組条約」は、ふたたび暗礁に乗り上げたかに思われた。

 ところが、今度は京都議定書のころとは風向きがだいぶ変わっていた。もはや温暖化防止は世界的なコンセンサス。トランプ大統領のキャラもあって、アメリカのパリ協定離脱を「暴挙」と批判する声が世界的に高まったのだ。

 この前後で自動車と関係の深いトピックを挙げると以下のようなものがある。

●温暖化対策と自動車業界の動き

 2015年9月 国連総会におけるSDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)採択。

 2015年9月 VWによるディーゼルエンジンの排出規制不正事件の発覚。

 2016年2月 ノルウェーで2025年までに内燃機関車の新車販売禁止を発表。

 2016年3月 テスラモデル3発売。

 2017年6月 トランプ大統領がパリ協定離脱を表明。

 2017年7月 フランスとイギリスが2040年までにガソリン車やディーゼル車の販売を禁止すると発表。

 2019年9月 グレタ・トゥーンベリさんの国連温暖化対策サミットにおける演説。

 2019年9月 世界の機関投資家515機関(運用資産総額約3,770兆円)が気候変動対策のスピードアップを要請する共同声明。

■温暖化対策に悪影響を与えた『ディーゼルゲート』

VWによるディーゼル排ガス不正はトランプ政権のパリ協定離脱と同様に温暖化対策に悪影響を与えた(nmann77@AdobeStock)
VWによるディーゼル排ガス不正はトランプ政権のパリ協定離脱と同様に温暖化対策に悪影響を与えた(nmann77@AdobeStock)

 以下はぼくの個人的見解だが、自動車関連に絞っていえば、VWによるディーゼル排ガス不正事件は、トランプ政権のパリ協定離脱と同じくらい温暖化防止政策に悪い影響を与えたと思う。

 ディーゼルゲート事件がすべての原因とは言わないが、欧州では温暖化防止に対する世論(とくに自動車に関して)が日本人が想像以上に強硬。合理的な反対意見(たとえばEVと内燃機関の共存)を主張するのでさえ、ポリコレ的なリスクが高い(ヘタをすれば炎上ということ)。

 そんな雰囲気の中で起こったのがトランプのちゃぶ台返しだ。パリ協定を守るため欧州の自動車業界はEVシフトやむなしを決断。自分たちのビジネスを否定するかのような内燃機関禁止政策にも敢えて異を唱えず、温暖化防止イニシアチブを推進する側に回らざるを得なかった。

 欧州主要国がつぎつぎと内燃機関車の販売を禁止する政策を打ち出した当時、日本の自動車業界関係者の多くは「あまりに急進的」と驚いたが、現地にはトランプの暴挙を止め温暖化防止の歯車を逆回転させないための世論があり、欧州主要メーカーはそれに配慮する必要があった。これがぼくの見立てである。

 ご存知のとおり、その後アメリカはパリ協定からの離脱を取り下げ、今年の2月にはバイデン新大統領がパリ協定への正式復帰を表明した。

 アメリカの二度にわたるちゃぶ台返しは、むしろ地球温暖化防止にコミットする欧州人の結束を高める結果となったが、特筆すべきは欧州では若い世代ほど地球温暖化防止への支持率が高いことだ。

 これは、IPCC設立以来30年以上にわたる教育・広報効果の成果でもあるが、有権者の支持がなければ各国政府は痛みを伴う改革を実行できないという意味で、きわめて重要だ。

 環境意識の高い若者が政治的にも有力な勢力に育ち、ドイツの「緑の党」に代表される環境リベラル政党の得票が伸びる。また、消費者としての彼らは温暖化対策に不熱心な企業の製品を選ばないという意味で、経済的にも温暖化防止にドライブをかける。

 そして、ESG投資の広がりによって、企業に流れる資金にも金融機関経由で温暖化防止の圧力がかかる。こういう強靭なシステムを構築することによって、EUはパリ協定を守り温暖化防止政策の後退を防いだといえる。

 ただ、その反動として温暖化防止の具体的な活動が急進化したのは否定できない。

 自動車でいえば極端なBEVシフトがその一例だが、エネルギー政策や炭素課税などに関しても、ヨーロッパは過激な単独行動が目立つようになってきている。

 再エネ中心のエネルギー政策は原子力エネルギーのバックアップなしには絵に描いた餅だが、原発廃止を決めたドイツをはじめフランス以外の国は原子力エネルギーには消極的。

 そんな中、北海に吹く風が弱まったことをきっかけに、ガス価格の高騰や送電ミスによるミニエネルギー危機が発生するなど、温暖化防止政策の負の側面も露呈しつつある。

 各国が表明している内燃機関車販売禁止政策が予定どおり実施されれば、おそらく既存の自動車産業は大きな打撃を受けること必至だし、2021年7月に予定されている国境炭素税の導入も域外との貿易に深刻な摩擦を引き起こすだろう。

 また、直近ではエネルギー価格の高騰や天然ガスの不足など、庶民の生活を直撃する逆風が吹いているようにも見える。日本だったら、政府支持率の低下によって、たちまち政権がガタガタになってもおかしくない。

次ページは : ■温暖化対策と自動車業界の今後は

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