かつて、日本でもアッパーミドル以上のステーションワゴンが大いに売れていた時代があった。トヨタクラウンステーションワゴンにマークIIクオリスおよびブリット、日産ステージアにスバルレガシィツーリングワゴン、三菱レグナムなどなど……である。だが、そんなアッパーミドル以上の国産ステーションワゴンも今やマツダ6ステーションワゴンが残るのみで、ほかはすべて討ち死にした。
直近における現実的な選択肢は、CセグとDセグの中間くらいに位置するスバルレヴォーグと、完全Cセグメントのトヨタ カローラツーリングしかない。レクサスに至ってはステーションワゴンの設定そのものがない。……これはいったいなぜなのか?
文/伊達軍曹
写真/ベストカー編集部、トヨタ、日産、マツダ、スバル、三菱、メルセデスベンツ、BMW、アウディ、FavCars
■ドイツ車のステーションワゴンはいまだ健在なのに……
「かつての日本人はステーションワゴンがけっこう好きだったが、その後はワゴンよりもスペース効率が高いミニバンやSUVが好きになっちゃって、室内がちょい狭めなステーションワゴンのことなど見向きもしなくなったから」
よく言われるこの仮説は、確かに部分的にはそのとおりなのだろう。だが、この仮説も、「国産アッパーミドルステーションワゴンの(ほぼ)絶滅」という現象を、完全には説明できていない。
なぜならば、同じステーションワゴンでも「ドイツ物」は相変わらず設定され続けており、なおかつ堅調に売れているからだ。
DセグメントではメルセデスベンツのCとBMWの3、そしてアウディA4にステーションワゴンが設定されており、Eセグメントでも同様だ。すなわち、Eクラスステーションワゴンと5シリーズツーリング、そしてA6アバントである。
そしてそれらは「設定されている」だけではなく「けっこう売れている製品」でもある。
■日本市場は世界的に見てもステーションワゴンの比率が高い
例えばメルセデスベンツ Cクラスは2020年に計6689台の新規登録があったが、そのうち、インポーターに確認したところによれば、約3割がステーションワゴンだったという。つまり、メルセデスベンツ Cクラスステーションワゴンは20年に「日本で2300台くらい売れた」ということだ。なかなかの数字である。
しかも同インポーターによれば、「日本市場は世界的に見てもステーションワゴン比率が高い」とのこと。他国では、CクラスもEクラスもセダン比率がもっと圧倒的に高いというのだ。
つまり、「かつての日本人はステーションワゴンがけっこう好きだったが、その後は(中略)ステーションワゴンのことなど見向きもしなくなったから」という仮説は必ずしも正しくない、ということである。ステーションワゴンを好む人は、まだまだ一定数以上はいるのだ。
もちろん、ドイツ車を好むユーザーと国産車を嗜好するユーザーとでは傾向が異なる可能性はある(というか、たぶん異なるのだろう)。だが、とはいえ同じ人間であり、同じ日本在住者である。その気質やニーズが、ドイツ車を好むか国産車を好むかで極端なまでに違っている可能性は低い。
■なぜドイツ勢のステーションワゴンは国内で販売され続けるのか
ミニバンブームの超全盛期はさておき、SUVブームも一段落ついた感がある現時点においては、国産車を好むユーザーのなかにも「SUVも悪かないけど、ちょっといい感じのステーションワゴンが登場したら買いたいんだけどね」と思っている人の数は、決して激少ではないはずなのだ。
ならばなぜ、国産のアッパーミドル以上のステーションワゴンはほぼ絶滅したままであり続けるのか?
そして逆になぜ、ドイツ勢のアッパーミドル以上ステーションワゴンは健在であり続けているのか?
……答えは「ビジネスのサイズが違うから」ということなのだろう。
■日本で販売しているのは「メルセデスベンツ日本株式会社」
例えば、先に例として挙げたメルセデスベンツ Cクラスステーションワゴンを製造しているドイツのダイムラー(22年2月1日からは「メルセデスベンツグループ」)は、まごうことなき巨大企業である。
だが、それを日本へ輸入して販売しているメルセデスベンツ日本株式会社は、そうではない。
いや、メルセデスベンツ日本も資本金156億円の大きな企業だが、従業員数約370人の、言ってみれば「優良中小企業」である。
そして、巨額のマネーと多数の人材が必要となる「クルマの開発」を自社で行っているわけでもないので、例えばの話としてCクラスステーションワゴンが1年に2300台くらい売れれば、充分やっていける。だから、わざわざステーションワゴンという製品ラインナップをカットする必要がない。
■トヨタが新型ステーションワゴンを作ったらどうなる?
だが、国内自動車メーカーは事情が異なる。ご承知のとおりのミニバンブーム(消費者のスペース効率志向の高まり)の時に、あらかたのステーションワゴンを「あんまり売れないから」ということで製品ラインナップから落としてしまった。
それはそれで間違った経営判断ではなかったと思うが、一度開発を完全にストップさせてしまうと、いざミニバンブームが終わり、SUVブームもやや微妙になってきた(飽和状態に達してきた)からといって、「じゃあ、また新しいステーションワゴンを作りますか」というわけにもいかない。
なぜならば、ご存じのとおり新型車の開発には恐ろしいほどのお金と人手がかかるもので、かかるわりには、新しく作ったそれがどれだけ売れるかは――特に、微妙な立ち位置にあるステーションワゴンというジャンルが、日本や、メイン市場である北米や中国でどれだけ売れるかは――まったく読めないからだ。
いや読めないというか、あくまで例えばの話として、もしもトヨタがドイツ御三家のステーションワゴンに勝るとも劣らぬ性能とデザインの新型ステーションワゴンをリリースしたならば、日本では年間3000台くらいは売れるだろう。
つまり、「ベンツのCクラスステーションワゴンやBMW 3シリーズツーリングの日本における販売台数と同じぐらいの数は、少なくとも売れるだろう」と読むことはできる。
■今後、国内で新型が登場する可能性はある!?
だが当然ながら、カネと人材を大投入したうえで「国内年間3000台」では、トヨタの場合はまったくビジネスにならない。従業員数約370人のインポーターと7万人超の自動車メーカーとでは、ビジネスのサイズ感がまったく異なるのだ。
「でも、さすがにトヨタが自信をもって作った新型ワゴンが年間3000台ってことはないでしょ? 少なく見積もってもスバルのレヴォーグくらい(年間3万台くらい)は売れるんじゃない?」と思う人は多いだろう。
実は筆者もそう思う。それゆえ今後はトヨタにかぎらず国内各社から、アッパーミドル以上の新型ステーションワゴンが登場する可能性は「ゼロではない」と思っている。
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