■主人公が情に流されると事態は悪化する
3人のひとときの幸せに影を落とすのが、刑期を終えて帰って来た彼女の夫の存在。刑務所で借金を作っていた彼は、その返済と引き換えに質屋を襲う約束をしてしまうのだ。母子の幸せを考えるドライバーはその計画に参加し夫を手伝うのだが、それに失敗したことから事態はどんどん悪いほうへと向かって行く。
この質屋襲撃時が3度目の“ドライヴ”。ドライバーが使用する車はフォードマスタングGTで、それを追いかけるのはクライスラー300C。
オープニングのチェイスシーンは夜のL.A.だったが、こちらは昼間。車同士をぶつけ合ったり突き合ったりを繰り返し、サイドターンを使ってどうにか逃げ切る。3回のなかでもっとも激しいカーアクションが展開するのがこのエピソードだ。
3度目のドライヴが終わると、今度はバイオレンスに拍車がかかり、ドライバーもこれまで封印していた狂暴な顔をのぞかせる。彼の過去は一切語られていないためか、さまざまな想像を掻き立てられるのだが、そのひとつのヒントになっているのが、彼がいつも羽織っている白いキルティングのジャンパー。
背中にはサソリが刺繍されていて、劇中でもサソリとカエルの寓話が語られる。「たとえ、カエルを助けなければいけなくても、サソリはサソリの本性に抗えない」というのだ。
ということはつまり、悪に手を染めた者は、そのなかから抜け出そうとしても出来ない、ということになる。果たして、3人にはどんな結末が待っているのか?
■ゴズリング自身が選んだドライバーの愛車にも注目!
まるで1980年代の映画のような映像と世界観、魅力的な主人公、さらに容赦ないバイオレンスのコンビネーションが斬新だったためか、本作は世界の映画祭で注目を集めた。
カンヌ映画祭ではニコラス・ウィンディング・レフンが監督賞に輝き、アカデミー賞でも音響賞にノミネートされ、日本でも映画ファンには大きな拍手で迎えられた。
ちなみに、ドライバーの愛車を1973年型シボレー・シェベル・マリブSSに決めたのは、その主人公を演じるライアン・ゴズリング。監督レフンに、演じるキャラクターに合うと思う車を選ぶよう言われ、廃車施設からこの車をピックアップ。レストアして使用したそうだ。
シボレー・シェベルSSといえば『ワイルド・スピード』シリーズの主人公ドミニク(ヴィン・ディーゼル)の愛車のひとつとしても知られているし、『アウトロー』でもトム・クルーズがこの車を駆って警察と大チェイスを繰り広げていた。
いかにもアメリカンなマッスルカーのイメージだからなのか、カーアクション映画には欠かせない存在のようだ。
●解説●
『ドライヴ』の監督ニコラス・ウィンディング・レフンはデンマーク出身。同国のスター、マッツ・ミケルセンを主人公にしたバイオレントなサスペンス映画『プッシャー』トリロジー(96~05)で注目され、イギリスで『ブロンソン』(08)を発表。本作でハリウッドデビューを飾った。
主演のライアン・ゴズリングは『ハーフネルソン』(06)、『ラ・ラ・ランド』(16)でアカデミー主演男優賞にノミネートされ、演技派として知られる役者。
彼が惹かれる母親を演じたキャリー・マリガンも『17歳の肖像』(09)、『プロミッシング・ヤング・ウーマン』(20)でアカデミー主演女優賞にノミネートされた英国の演技派。
整備工場のボスを演じたブライアン・クラクストンも演技派で、闇社会の男を演じたアルバート・ブルックスは本作でさまざまな賞にノミネートされている。実は役者は演技派ばかりという贅沢さだったりもするのだ。
レフン監督は、「脚本も適当で、現場でどんどん変えて行くから、どんな映画になるのか、自分でも想像がつかない」と言っているが、少なくとも『ドライヴ』には計算された美しさがある。
レフン自身は車に興味がなく、運転免許ももっていない(8回試験を受けて8回落ちた説あり)ので、車パートはかなりライアン・ゴズリングの意見が取り入れられたようだ。ゴズリングもほとんどのドライビングシーンを自分でこなしている。
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『ドライヴ』
原作:ジェイムズ・サリス(ハヤカワ文庫刊)
Blu-ray&DVD発売中
発売元:バップ
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