■現場のEVデザインはコストと相談した最適解か
最大の理由は「お金がかかりすぎるから」ということになるだろう。
インホイールモーターにすれば、それだけでフロントボンネットは大幅に小さくできるはず。技術的には可能だが、コストの上昇は避けられない。ただでさえ割高なEVの値段が、さらに高くなる。ましてや8輪にしたら、操舵機能は大幅に複雑になり、これまたコストが上昇する。
従来の4輪だと、タイヤは小さくできない。タイヤを小さくすると、クルマはそれだけで大幅にショボく見えてしまうので、ルックス的にもタイヤは大きくしたいから、逆にますます巨大化している。
その巨大なタイヤを、操舵のために左右に旋回させるためには、それだけでかなり大きなスペースが必要で、その上を居住空間にするためには、全高を大幅に上げなくてはならず、バスや、最低限ミニバン的なフォルムになってしまう。
ならば、従来型の前方に突き出たボンネットのまま作ったほうが、あらゆる意味で有利。もともと全高が高いSUV形状なら、バッテリーを床下に敷き詰めるのがさらにラク。世界的にもSUVが大人気なのだから、これを使わないテはない。そういう答えが導かれる。
なんだか夢のない話だが、そういう現実を踏まえた上で、これまで我々が目にしてきた、主なEVのデザインを評価してみよう。
■清水草一氏が斬る! 現代のEVデザイン
●三菱 i-Miev
三菱の軽自動車「i」がベース。「i」自体、非常にユニークな未来的デザインで、ある意味EVっぽかったが、軽自動車として先行したため、EV化にあたってのデザイン的なインパクトは弱まってしまった。
●日産 リーフ(初代)
当初、アメリカ西海岸を主要ターゲットに、大量生産・大量販売を目指していたため、違和感を抑える目的で、あえて従来型のデザインを採用。これが裏目に出た。リーフの前身にあたるEV試作車の車体は、2代目キューブを流用していたが、そちらのほうがはるかにEVっぽくユニークに見えたのは私だけか?
●日産リーフ(現行型)
初代リーフの販売が目標の数分の一にとどまったため、初代をベースに手直しした形で登場。決して悪くないが、フォルムも初代と似たようなものになり、その後の凋落の一因となった。
●日産 アリア
スリークで都会的なSUVタイプだが、グリルに穴が開いてない程度で、EVらしさは薄い。
●ホンダe
ドアミラーをカメラ化したこともあって、きわめてシンプルなフォルムは、未来を予感させる素晴らしいデザインになっているが、逆に従来の自動車として究極の基本形とも言えるので、いかにもEV! というイメージではない。
●マツダMX-30 EV
ガソリン車のMX-30がベースであり、EVならではのフォルムではない。
●トヨタbZ4X/スバルソルテラ
日産アリアとほとんど同じ路線。
●メルセデスEQA/EQC
従来のSUV(GLA/GLC)をベースに作られている。より滑らかなパネル面や、穴のないグリル形状でEVっぽさを出しているが、それだけ。
●VW ID3
ゴルフの延長線上にあり、特にEVっぽくはない。
●VW ID LIFE(コンセプトカー)
ホンダeとまったく同じ路線。
●テスラモデルS/3
従来のセダンから、フロントグリルの穴をなくしただけに近い。
●テスラモデルX/Y
従来のSUVのリヤドアをガルウィング式にしたことで特色を出したのみ。
●テスラサイバートラック
従来の自動車デザインを破壊しようという意図は激しく伝わってくる。極端に平面化&単純化されたフォルムは、一瞬で「異質な何物か」を連想させるし、触ると感電しそうな高電圧の電気製品もイメージさせる。ただし、それはあくまでイメージ的なもので、機能の裏付けはない。
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このように見ていくと、EVが本来持つデザイン的なパフォーマンスをフルに発揮するのは、バッテリーのコストダウンが成功してEVが自動車の主流となり(なればだが)、様々な工夫をこらす余裕が生まれてから、ということになりそうだ。
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