フェラーリの快進撃が止まらない。先だって発表された今年1〜9月の出荷ベース世界新車販売の結果は、なんと前年同期比+27%(!)の総販売台数8206台。年間1万131台を記録した2019年を上回るハイペースで、昨年や2018年の約9200台を年間で上回ることは確実な情勢になってきた。うち日本は889台を記録。2019年から3年連続で前年実績を上回っており、年間で1000台を超えることは間違いない。
日本でもスーパーカーといえばまずフェラーリが王道であることを改めて証明したワケだが、なぜ日本でスーパーカー乗りたちの心をつかんで離さないのか、各モデルに乗ってきた西川淳氏が解説する。
文/西川 淳、写真/フェラーリ、ベストカー編集部
■V8モデル人気に支えられた跳ね馬の快進撃!
好調な世界販売を支えているのは、パンデミックから劇的に回復を遂げた中国(香港、台湾含む)マーケットで、前年比なんと236%アップ。さらにアメリカ市場が29%、日本を含むアジアパシフィックが24%と続く。パンデミックの影響が続く欧州市場でも17%増というから、跳ね馬の笑いは止まらない。
商品面ではV8モデルの人気が凄まじい。F8シリーズというブランド主力のミドシップモデルに加えて、ローマやSF90シリーズといった魅力的なニューモデルの投入、さらにはポルトフィーノのマイナーチェンジもあって役者が揃った。
前年同期比でおよそ4割の伸長を記録。フラッグシップの12気筒モデルを大事に温存(希少性を保つ)しつつ、大幅な販売台数増を達成した。もはや頑張って実用モデル(SUVならぬFUV)など作らなくてもいいんじゃないか、と思ってしまうほどの好調ぶりである。
自動車界の世界最強ブランド。その人気ぶりはもはやパンデミックも撃退するほど不動の強さを誇るに至った。もちろんそのほかの高級ブランドもパンデミック下にあって好調な販売台数を記録しているから、背景には世界的な富の偏在化や格差の広がりなど根本的な理由も大きい。
■フェラーリがスーパーカーブランドで最強であり続けるワケとは?
けれどもフェラーリの強さの秘密はそれだけに留まりそうにない。否、むしろそういったジェネラルな背景がフェラーリの強さを一層押し上げたようにも思う。では、なぜフェラーリは世界でも、そして日本でも、これほど「強いブランド」であり続けるのだろうか。
ひと昔前であれば、1947年来の歴史を振り返りつつ、フォーミュラ1に代表されるモータースポーツ活動を背景に、スポーツカーメーカーとして王道的なプロモーション&マーケティング活動に焦点を当てて説明することもできたであろう。
けれども昨今のフェラーリは、もちろんレーシングシーンではなくてはならぬ存在ではあるものの、F1を見ればわかるとおり決して「圧倒的に強い」わけじゃない。16回というF1最多のコンストラクターズチャンピオン獲得を誇る名門は、2008年以来、頂点の座から遠ざかったままである。どうやらF1イメージ=人気だけで売れているわけではなさそうだ。
■跳ね馬の強さはマーケティングの巧みさと新商品、新技術の投入の速さだ
筆者の考える跳ね馬の強さはズバリ、「販売戦略と商品企画の巧みな融合と新商品投入の早さ」、である。
マラネッロのロードカー戦略は今、大きく分けて4つある。基本となるスポーツカーシリーズ(812シリーズやF8シリーズ)とGTシリーズ、特別な顧客にむけた限定モデル(ワンオフやフューオフ)、そしてヒストリックな意味合いを帯びたイコナシリーズだ。
けれどもフェラーリの顧客向けビジネスはロードカー販売に止まらない。実はレーシングカーも重要な商品群で、ワンメイクレース開催やアマチュアドライバーの育成、レーシングマシンによるエクスペリメンスプログラム、さらには旧型F1のメンテナンスと走行サポートといったトラックビジネス(コルセ・クリエンテと呼ばれている)を組織的に展開する。
つい先日も専用テストコースであるフィオラノを筆者は訪れたのだが、門を入ってすぐに巨大なコルセ・クリエンテ専用の施設が建設されていて度肝を抜かれたばかりだ。加えてフェラーリ・クラシケではそのヘリテージを守り、未来へと継承する事業にも積極的に取り組んでいる。
つまり、フェラーリはF1を頂点とするプロフェッショナルレーシングとロードカー販売という、これまでは分断されていたふたつの世界観を空間時間軸ともにリアルにつないでみせた。
■F1もオーナー向けビジネスの一環。望めばF1ドライバーになることも可能!?
レース活動はもはや単なる広告マーケティング戦略ではなくなった。フェラーリエンブレムを付けたマーチャンタイズビジネスを底辺とし、F1マシンを頂点とする綺麗な三角錐タワーが構築されたのだ。
そのタワーのなかでは上下方向への移動が実際に可能、F1ワークスドライバーは非常に困難だとしてもそれに近い位置まで望めばできる、というところにリアルな夢がある。そんなブランド、ほかにない。
そして顧客はこのタワーのどの段階にいるかによって、フェラーリ社から個別の対応を受けることになる。グッズを手にして喜ぶことが精一杯の我々のことなどマラネッロは預かり知らないが、タワーを登っていけば確実にマラネッロから「知られる」ところになる。
フェラーリディーラーで認定中古車を買い求め、現行モデルをオーダーし、さらに乗り換えていくうちにタワーの螺旋階段を徐々に登っていく。年齢が若ければ階段を上がるペースも早くなり、そのうち特別なモデルの購入を打診されるようになる。
そうなればしめたもの。なぜなら今、フェラーリの限定車は買った途端に、否、購入前であっても、正札より高くなることが当たり前になっているのだ。10年に一度のスペシャル限定モデル(エンツォやラ フェラーリ)を幸運にも買えた暁には、その売却益でそれまでのシリーズモデル購入費用など賄えてしまう(もっともディーラー以外で売却してしまうと一気に螺旋階段から落ちてしまうが)。
そもそもシリーズモデルでも高値安定の相場で売買されている。フェラーリは今やとても優秀な、そして乗って楽しむことのできる投資対象にもなった。
■フェラーリは「夢の三角錐タワー」を活用し、顧客の動向を探り商品化へつなげている
ここからがフェラーリらしいところで、このタワーを一気に駆け上がる方法もあるにはある。マラネッロは後生大事に跳ね馬をコレクションする人よりも積極的に乗る人を好む。フェラーリ主催のサーキットイベントやツーリングイベント(カヴァルケイド)などに愛車を持ち込み、SNSなどで自ら発信する人を評価する。
その極め付きが前述したコルセ・クリエンテの面々であることは想像に難くない。つまり、フェラーリからレーシングカーを購入してサーキットイベントに参加する人はずいぶん上層階にランクされる。
買えば買うほどに「旨味の増す」販売戦略を彼らは確立したというわけだが、もちろんタワーの住人を常に刺激する商品が最も重要である。そこでマラネッロは常にカスタマーの動向をダイレクトに探っている。どうやって? これも三角錐のタワーを使えば簡単だ。
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