■現在の最先端とかつて想像していた未来のクルマ
たとえば、2020年にホンダが満を持して市場へ導入した「ホンダ e」。同社曰く、都市型コミューターとして、「これまでのクルマにはない魅力を追求」しながら、EVの本質を見つめ、柔軟な発想で「未来を見据えて」作り上げたという。たしかに、先進技術やパワーユニット、世界初となる5つのスクリーンを水平配置したワイドビジョンインストルメントパネル、見せる要素と隠す要素を明確化したエクステリアデザインなどからは、これまでにない未来的なクルマを世に提案しようというホンダの意欲が感じられる。
しかし、意外なほど注目度は高くない。都市型コミューターという使う人を限定した商品なら、もっと尖ってみるという手もあったのではないだろうか? かつて「早すぎた」と言われたクルマが登場した時代より時の流れが早い現在なら、もっと先の未来を想起させる先鋭的なデザインで度肝を抜いてほしかった。
むしろデザインフィロソフィーなる考えが掲げられる以前のほうが、未来を予感させ、大衆をワクワクさせるデザインが多かった。まだ庶民にとってクルマが憧れの存在だった1970年代のモーターショーなんて、資料や写真を見るだけでも楽しいし、デザインが実に華やかだったことがわかる。その早すぎた(?)革新性からは、クルマの未来が前途洋々だったことが見て取れる。ショーカーはあくまでもショーカーだが、今改めて見ると、しっかりと未来に繋がる創造性を持ち合わせていたのは事実だ。
■最新SUVで考える次世代車のデザイン
売れ筋となっている車種では、斬新すぎることがデメリットになる場合もある。たとえば売れ筋ジャンルであるSUVは、軽自動車やコンパクトカーといったコスト重視のクルマと違い、市場での価格競争が激しくない。つまりSUVは個性で選ばれることが多いため、絶対にハズせないという重圧の一方で、次代を担うクルマとして、見る者に新しさを感じさせる役割が与えられる。
SUVの近未来をあらゆる面で具現化したものとして、国産モデルでは、日産アリアやトヨタbZ4X&スバル ソルテラなどが挙げられる。いずれも次世代を象徴する存在だが、デザインにはそれほど斬新さはなく、過去に「こういうクルマ合ったよね?」的な既視感が伴う。売れている=普及しているSUVで、あえてEVにチャレンジして、世に広く浸透させようとする狙いは少なからずあるようだが、売れ筋ジャンルであるがゆえに、そのデザインが革新と保守の間で右往左往しているように思える部分もある。
デザインの印象が消費者選好のすべてではないが、デザインにはものの価値を創り出す役目があるのは事実。技術の進展や流行の移り変わりがとてつもなく早い現代では、より先を見据えた提案をしてこそ、見る者に“未来的”と感じさせるはず。現代では奇抜なものへの抵抗感は薄れており、流行に左右されずに主張を確立しているなら、マイノリティであることがデメリットにはなりにくい。自動車開発にはさまざまな事情が複雑に絡んでいるとは思うが、“次世代車”と謳うのであれば、ガルウイングほどとは言わなくても、どこかこれまでに見たことのない造形があってもいいのではないだろうか。
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