自動車業界は100年に一度の大きな変革期を迎えていると言われ、あらゆる領域で革新を求められている。特に自動車の売れ行きに大きな影響を及ぼすデザインは、人に与える印象を左右する要素としてだけでなく、電動化をはじめとした新しい技術やその有効性を表現するものとして重視されている。より未来的なものが求められるようになっているが、果たしてそれはどの程度実現されているのだろうか。
本稿では、現代および近未来におけるクルマのデザインのあり方、捉え方を考えつつ、EVやSUVとのマッチングについて分析する。また、画像ギャラリーでは、過去に登場した未来的で早すぎた(?)デザインも紹介していこう。
文/フォッケウルフ
写真/いすゞ、レクサス、ホンダ、日産、トヨタ、スバル、マツダ
■カーデザインが哲学を持つ時代
新しいものは人をワクワクさせるが、その“新しさ”のさじ加減は難しい。これを間違えると、人からは支持されにくくなる。そういったクルマはこれまでにも数多くあり、「早すぎた」「時代を間違えた」などと揶揄されてきた。
代表的なモデルを挙げるなら、いすゞのヴィークロスである。今から20年以上前の1997年にデビューした同車は、当時のコンセプトカーのデザインがほぼそのまま市販車に活かされており、美しくラウンドした筋肉質なフォルムをまとっていた。この都会的な雰囲気を持つ3ドアモデルは、現在販売されているクロスオーバーSUVのなかにポンと入れてみても、まったく遜色のない魅力を放っている。当時、販売面では振るわず、次期型が誕生することもなかったが、いまだに多くのファンを持つ伝説のスペシャリティSUVであった。
これまでに見たことがないものは「新しい」とか「斬新」、既視感があるものは、「古い」「ありきたり」といった印象を人に与える。ただ、革新的で独創性に溢れていても、ある程度の段階を踏んでいないと、その奇抜さばかりが注目され、人によっては馴染めないものとなる。一方、多少目新しさに乏しくても、見る者に安心感を与え、実績さえ伴っていれば、間違いのない選択であったと思わせてくれる。
昨今は、各メーカーとも“デザインフィロソフィー”を定義し、積極的に打ち出すようになった。どんなクルマを作るかという企画段階から、新しいライフスタイルの提案、ユーザーへの宣伝訴求、さらにメーカーとしての商品戦略も含め、デザインが担う領域が大きくなっている。綿密なマーケティングによって導き出されたフィロソフィーは、ブランドイメージの構築と強化に繋がり、メーカーの考え方を内外により深く浸透させるという狙いがある。
こうして掲げられたメーカーごとの考え方は、デザインだけでなくエンジニアリングの面でも反映されていくが、それらは頑なに守られるわけではなく、時代の変化や要請に対応するべく進化していく。特に最近は、「CASE」呼ばれる新たな領域での技術革新が進んでおり、クルマの概念が大きく変わろうとしている。現在だけじゃなく、未来にあるべきクルマについても深く考察され、メカニズムやパッケージングをデザイン的な観点からも検討し、実現することが、クルマの未来を切り開くうえで重要となる。つまり、新しいものが生まれる契機でもあるわけだ。
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