■『現代に蘇るAE86』の狙いは成功したのか
ただし、初代86のその試みが成功したかというと、ぼくは微妙だと認識している。
たとえエコタイヤを履いていても、そもそも86のシャシー性能は高水準。21世紀のスポーツカーはそんなに簡単にテールアウトの姿勢をとったりしない。
しかも、馬力は200psと十分ながらNAエンジンゆえにトルクが不足気味。最大トルク205Nmでは後輪のグリップを自在にコントロールするにはパンチが足りない。
結果として、普通に乗ってる分にはけっこう楽しめるのだが、タイヤの限界に近づくにつれてスイートスポットが狭くなり、コントロールが難しいクルマとなっていた。
サーキットで試すと、クイックなステア操作からオーバーステア状態に持ち込むのは簡単なのだが、そこから綺麗にドリフトアングルを維持しようと思うと意外に手強い。AE86のテイストを現代に蘇らせるのは、そんなに簡単じゃなかったのだ。
これに対し、BRZの方は最初からスバルの伝統にしたがってスタビリティ重視に仕上げられたのが幸いしている。
もちろん、BRZでもテールを振り出すのは可能だが、そのためには速いステア操作によるフェイントモーションをきっかけに使うなど、意図的に「コジッてやる」必要がある。
だから、BRZを「クルマなり」に走らせると、安定してスムーズなグリップ走行に収斂する。サーキットだと刺激はあんまり感じないのだが、楽チンで速いのがBRZのキャラクターなのだ。
■モデルチェンジで乗り味はどうなった?
そんな86/BRZがモデルチェンジして第2世代となったわけだが、その進化は見た目の変化よりはるかに大きい。
まず、両者共通の美点として評価したいのは、乗り心地を中心とした走りの“質感”が格段に向上していること。これはレヴォーグでの成果を応用したスバルのお手柄で、F30時代のBMWならほぼ同レベルに達したとさえ感じる。
2.4Lに排気量を拡大したエンジンもハンドリングの向上に大きく貢献している。
「エンジンがハンドリングに貢献?」と疑問に思う人もいるかもしれないが、スポーツカーで重要なのはドライバーの意思に即応するレスポンスと、機動に必要なエネルギーを供給できる余剰トルクの大きさ。シャシーが同じでもエンジン次第で操縦安定性は大きな影響を受ける。
先に「205Nmでは後輪のグリップを自在にコントロールするにはパンチが足りない」と書いたが、新型は250Nmに増加したトルクによってその問題をほぼ解消。
新しいGR86/BRZが選んだタイヤは同じミシュランでもパイロットスポーツ4だが、よりグリップレベルの高いスポーツタイヤを履いているにも関わらず、限界付近のコントロール性が格段に向上しているのだ。
おかげで、走りのテイストにおけるGR86とBRZの違いにも、興味深い変化が生じた。
以前は、例えばサーキットを走るなどしてスピードレンジが上がるほど、じょじょに両車のハンドリングのキャラクターが別れてゆくような傾向があった。具体的にいえば、低速域で面白いのは86だがサーキットでは逆に扱いがデリケートで、そういう領域ではBRZの方が乗りやすい。そんな違いがあった。
新型は中速域までは以前と同じ。一般道や箱根ワインディングレベルではGR86の方が反応がビビッドで面白く、BRZの方がしなやかでトラクションのかかり方が頼もしい。どちらのキャラクターも甲乙つけ難くファン・トゥ・ドライブだといっていい。
意外だったのは、この両車をサーキットで乗り比べると、限界付近ではどちらも似たような挙動に収斂してゆくこと。ドリフトしようと思えばどちらでも容易だし、グリップ走行に徹すればきちんとタイムを稼ぐような走り方に応えてくれる。
全体として、サーキットでは従来型よりずっと乗りやすく、たぶんどんなドライバーが乗ってもタイムを出しやすくなっているはずだ。
というわけだから、新型86とBRZはお好み次第でどちらを選んでもぜんぜんOK。ぼくは従来型ではBRZ派だったけど、新型はGR86の好感度がすごくアップ。ほぼ互角というのが現在の心境でございます。
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