■公衆衛生と経済活動のはざまで起きること
コロナ禍においてマレーシアとベトナムは、そのほかのアセアン各国と比較しても、自動車産業でのサプライチェーンへの影響が大きかった。
両国ともコロナ禍の対応として、厳格なコロナ対策が実施され、工場の操業規制が実施された。
デルタ株の蔓延を受けて、マレーシアでは2021年4月以降、新規感染者が急増し、またベトナムでも2021年7月に感染急拡大が発生した。
それによって自動車製造に使われる車載半導体とワイヤーハーネスの供給が不足し、サプライチェーンに大きな影響を及ぼす結果となった。
マレーシアにはSTMicroelectronicsやInfineonなど、半導体の後工程メーカーが集中し、世界の半導体生産の1割強を占めると言われている。
マレーシアでの工業稼働停止は半導体の供給不足を通じて自動車産業に大きな影響を与えており、2020年秋以降から特に目立って半導体不足に拍車をかけた。
■コロナ禍はまだ終わりが見えない
しかし、マレーシアの状況が改善されたとしても充分な供給力を回復するまでには少なくとも1年以上はかかる可能性がある。ベトナムはワイヤーハーネス(自動車用組電線)などの労働集約的な自動車部品の集積地となっている。
製造業の拠点を中国から分散し、チャイナ・プラスワンが進められた結果、ベトナムは生産移転先の有力国となっていた。
電線を束ねる工程で人手を必要するため、活動規制などの影響を大きく受ける。日系自動車メーカーは、ワイヤーハーネスをベトナムに依存している。
マレーシアとベトナムだけがサプライチェーンの危機を引き起こした犯人ではない。コロナの集団感染が発生し、稼働規制がかかってサプライヤーの供給が止まるなど、あらゆる国、地域で部品の調達が滞る事態が起きている。
サプライチェーンの混乱は今も続いている。サプライチェーンの強靭化は一朝一夕にはできず部品サプライヤーと一緒に危機に対して迅速かつ的確に対応することがますます求められることになろう。
■ASEAN主要5カ国の2021年通年の新車販売台数は対前年比15%増
2021年のアセアン主要5カ国合計の年間新車販売数は、通年で272万台。2020年比(237万台)で15%増加したが、2019年比(333万台)には届かなかった。
2020年はコロナ以前の2019年対比でマイナス30%以上の落ち込みで、2021年は2019年対比でマイナス20%であった。コロナ以前の市場規模への回復にはまだ至っていない。
月別新車販売台数の推移を見ると、コロナショックによる落ち込みは2020年4月に底を打った。コロナ以前の販売台数よりも低いレベルでの推移ではあるが、2020年末まで右肩上がりを維持し、12月にはコロナ前の水準にまで回復した。
しかし、再び2021年の1月に販売台数が減少。新型コロナウイルスの感染再拡大で経済活動の制限が厳格化されたタイとマレーシアで販売状況が悪化したためだ。
第2波が発生し、消費者心理が冷え込んだ。その結果、両国とも新車販売台数が対前年比同月で20%以上落ち込んだ。
2021年4~6月期は5カ国すべての国の経済がプラス成長となり、新車販売市場も上向いたが、2021年6~7月にかけて発生したコロナ変異種デルタ株の感染急拡大による影響で販売台数が減少した。
一方、足元では回復をしており、2021年12月には主要5カ国の新車販売台数はコロナ以前比で約10%増加している。
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