■販売規模から考えれば、ライバルに対して健闘しているマツダ2
それならマツダ2の売れ行きはどうなのか。発売から6年以上を経過しながら、2021年には2万4652台(1カ月平均で2054台)を登録した。この販売実績は、ヤリス(ヤリスクロスとGRヤリスを除く)の24%、ノート(シリーズ合計)の27%、フィットの42%に留まるが、マツダとしては最多販売車種だ。
ちなみに国内で展開するマツダの販売店舗数は約770箇所とされる。トヨタの4600箇所、日産の2100箇所、ホンダの2200箇所に比べて大幅に少ないから、見方を変えればマツダ2は1店舗当たりの売れ行きが多い。マツダ2の1店舗の年間平均登録台数は32台だから、ノートの43台よりは少ないが、フィットの27台、ヤリス(ヤリスクロスとGRヤリスを除く)の22台を上まわる。マツダ2は、マツダの国内販売を支える基幹車種だ。
それでもマツダ2の販売推移を振り返ると減少傾向にある。現行マツダ2がデミオとして発売された翌年の2015年には、7万2771台(1カ月平均で6064台)を登録して、2021年のフィットを上まわりノートに迫る売れ行きだった。それが2016年には5万7320台、2017年には4万9302台と下がっていく。
マツダ2はコンパクトカーでも趣味性が強く、購入理由もカッコよさや楽しい運転感覚などマツダ車の魅力だから、「マツダ2を買いたい」という動機で選ばれる。「コンパクトカーが欲しい」ではないから、ユーザー層もほかの車種に比べると狭くなる。
ハイブリッドが用意されず、クリーンディーゼルターボになることもマツダらしさだが、これもユーザー層を狭めた原因だ。今はコンパクトカーもハイブリッド人気が高く、ノートシリーズはノーマルエンジンを用意しない。フィットもe:HEVが圧倒的で、ヤリスはノーマルエンジンを2種類(1Lと1.5L)設定しながら、ハイブリッドが45%を占める。
以上のようにマツダ2は、コンパクトカーのユーザーではなく、マツダ車の顧客に向けて開発された。従ってハイブリッドも用意されず、クリーンディーゼルターボになる。仮にハイブリッドを用意しても「マツダらしくない」とされ、かつてのアクセラハイブリッドのように販売は伸び悩んだ。
そこまで考えると今のマツダ2は、マツダ車としてクルマ造りに必然性があり、売れ行きも妥当と判断される。マツダ2は現状でよいのだ。
■振り向かせたかったはずがチョイスを誤ったマツダは、再考すべきところに来ている
ここで話は再び冒頭に戻る。「マツダ2はスポーツカーのように思えて私には運転できない」という意見も多く、「従来のマツダ車に興味を持たなかったお客様を振り向かせるため、MX-30の開発プランが持ち上がった」のだが、MX-30は失敗に終わった。
マイルドハイブリッドに加えて電気自動車も設定したが、2021年の登録台数は4653台(1カ月平均は388台)だ。MX-30を2020年に発売した時の月販目標は1000台だったが、発売直後の時点で目標の達成率は40%以下であった。
それでも「従来のマツダ車に興味を持たなかったお客様を振り向かせたい」という思いは素晴らしい。今の魂動デザインに基づくマツダ車は硬直化しており、どれも同じに見えてしまう。好きなユーザーはすべてのマツダ車に共感するが、そうでない人は全滅だ。「従来のマツダ車に興味を持たなかったお客様を振り向かせたい」という商品開発は、硬直化した現状の突破口になり得る。
問題はその商品開発の結果がMX-30だったことだ。ボディサイズがCX-30と同等のSUVで、観音開きのドアは一般的に使いにくい。外観は水平基調でシンプルに仕上げ、内装にコルクを使うなどリラックスできる雰囲気だが、車両全体を見ると理解しにくい。売れ行きが目標の40%以下に留まるのも当然だ。
MX-30の出発点となったアンケート調査は、前述のとおり、マツダ2に関してクルマ好きではない一般女性を対象に行われた。そこから導き出された考え方が「従来のマツダ車に興味を持たなかったお客様を振り向かせたい」なのだから、開発する車両のカテゴリーも、マツダ2と同じコンパクトカーにすべきだった。マツダ2のアンケート結果を、CX-30の姉妹車に反映させても成功しないのだ。
それなら具体的にどうすべきか。マツダ2のプラットフォームやエンジンを使った少し背の高いコンパクトカーを開発すべきだ。2代目デミオ・コージーのように、良好な視界で運転しやすく、車内は広い。内装は明るい木目調パネルとコルクで仕上げ、シート生地には伸縮性の優れたファブリックを使う。内装のセンスはMX-30と同じでよい。
従来のマツダ車は「気持ちよく、速く走る」価値観だが、新しいコンセプトのコンパクトカーは「車内が心地よいから、少し時間を掛けて、ゆっくりと目的地に向かいたい」というものだ。それを前述のアンケートに沿って、コンパクトカーで商品化すべきだった。
このようなコンパクトカーが登場すれば「マツダ2はスポーツカーのように思えて私には運転できない」と考えている「従来のマツダ車に興味を持たなかったお客様」も振り向くだろう。
直列6気筒エンジン+後輪駆動のマツダ車も魅力的だが、それ以前にMX-30で果たせなかった思いを成功させるべきだ。マツダが国内のユーザーを大切に考えているなら、国内市場向けのチャレンジを優先させるのは当然だろう。
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