■勝負はどれだけ総利益を上げることができるか だが日本の自動車メーカーの総利益割合はあまりに薄い
それを実現させるにはどうしたらいいのか――。これはもう、企業が生み出す付加価値の総量を上げていくしかない。
なぜIT企業が気前よく従業員に高給を出せるのかというと、その理由は明白。彼らがボロ儲けしているからだ。
アップルは昨年10月から12月までの3ヵ月間で1239億4500万ドル(14兆250万円=1ドル115円換算)を売り上げ、純利益は日本円で実に4兆円。
日本の利益首位のトヨタが1年で出す利益を軽く超える額を3ヵ月で稼いでしまうのだ。これは高い給料を従業員に支払った後に残った利益。稼ぐ力がケタ違いなのだ。
日本でも稼ぐ力を背景に従業員に高い賃金を払うエクセレントカンパニーは存在する。
よく知られているところでは工場自動化のソリューション企業、キーエンスだろう。2020年度の売上高に対する純利益の割合は36%に達し、組合員平均年収はトヨタの2倍以上の1751万円だった。
今日、岸田政権は賃金アップを企業に呼びかけている。売り上げから製造原価を引いた総利益のうち、どのくらいを人件費に使うかというのが大事だが、分配率をいじったところで賃上げは長くは続かない。
人件費の原資になる総利益をどれだけ拡大できるかが問われているのだ。
売り上げに占める総利益の割合を見ると、日本の自動車メーカーは総じてあまりに薄すぎる。単一ブランドとしては世界にもはやライバルなしで巨額の利益を上げているように見えるトヨタですら、同じ人員でより多くのクルマを売ることによる薄利多売と金融緩和による円安で利益を拡大しているにすぎない。
トヨタの従業員は一様に、自分たちが儲かっているとは言わない。薄氷を踏むような思いがあるからだろう。ましてほかのメーカーは推して知るべしだ。
■「いいものをより安く」から高付加価値型へ そこにはエンジニアのチカラが不可欠
エンジニアの待遇を底上げするには、そろそろ新興国企業の戦略である「いいものをより安く」から脱却しなければならない。
つまり、高くても顧客が喜んで買ってくれるような高付加価値型の先進国型マネジメントを模索すべきだろう。今の時代、クルマがカッコいい、高性能、エコといったことだけではそれは成し遂げられない。
それを超える新しい価値を創造するには……そこはやはりエンジニアのチカラが試されるところ。
今はまだ分配の原資が足りないにしても、付加価値が上がったあかつきには必ずや厚遇をもって応えるという約束は欲しい。
経営者にとって今までうまく儲けを出せてきたビジネスモデルから新しいスタイルに脱皮するのは、清水の舞台から飛び降りるような勇気が必要なものだが、次の時代を担ういい人材を集めるためには、経営者自らが背水の陣を敷く覚悟を見せることも大事であろう。
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