■昨年12月から中国製電気バス4台が京都市内を走る
こうした「チャイナ・マジック」が可能なのは、14億1300万人(昨年末時点)の巨大市場があるからにほかならない。
中国の昨年の新車販売台数は2627万5000台で、日本は444万8340台。中国市場は日本の5.9倍で、しかも中国が前年比3.8%増であるのに対し、日本は3.3%減。つまり差は開く一方なのだ。
「全世界の自動車市場をEVに変えて、世界に攻勢をかける」──これが中国の狙いだ。
昨年末の12月22日、京都市内を走る京阪バスが、BYDの電気バス「J6」4台の運行を始めた。
複数台で運行する一路線の全車両を電動化するのは、日本で初めてだ。しかもそれが中国車だったため、江戸時代末期の米ペリー提督の「黒船襲来」になぞらえて、「紅船襲来」と、マスコミは書き立てた。
その時、京阪バスの鈴木一也社長は、こうコメントした。
「価格を考えると、選択肢はBYDしかなかった」
日本の国産メーカーの電気バスは約7000万円。それに対し、BYDの「J6」は約1950万円。まるで7割引きで買うような感覚だ。しかも自動車業界関係者の話によると、すでに質的にも、国産品を超えているという。
BYDは今後10年以内に、4000台の電気バスを日本で販売する計画だ。
■携帯電話の大量普及を先読みした、BYD・王伝福CEOの千里眼
「いまのBYDは、1965年のトヨタだ」──この言葉が私の脳裏を離れない。2018年1月、中国広東省深圳(しんせん)市にあるBYD本社で聞いたものだ。
BYDは、漢字で書くと「比亜迪」。「ビーヤーディ」と発音する。「アジアの他社よりも道を開く」という意味に取れ、アジアでナンバー1の自動車メーカーを目指すとの気概を感じる社名だ。
BYDは、1995年に王伝福(おう・でんふく)CEOが、深圳で創業した。
現在55歳の王伝福CEOは、昨年のフォーブス世界長者番付で118位、163億ドル(約1兆8780億円)という途方もない資産を誇る立志伝中の人物だ。
王CEOは1966年、安徽省の貧農家庭に生まれ、湖南省長沙の中南大学冶金学部を卒業。北京有色金属研究所で修士号を取得し、同研究所で金属を分析する研究者だった。
この頃、中国で一世を風靡していたのが、米モトローラの携帯電話だった。今後、中国で携帯電話が大量に普及していくと見込んだ当時29歳の王氏は、携帯電話のバッテリー電池を作る会社を創業した。
これがBYDである。
■このまま自動車開発を続けても日米欧のメーカーに勝てない
4年前に私が本社を訪れると、王CEOと、その側近でエンジニア出身の丁海苗(てい・かいびょう)副社長が迎えてくれた。彼らは、今から約20年前の日本にまつわる興味深いエピソードを、話してくれた。
「当時、バッテリー電池を作っていた私たちは、自動車産業への進出を夢見ていました。その際、行ったのが、ダイハツのシャーリーを解体して、自動車の構造を徹底的に研究することでした。
日本車は、深く内部構造を理解すればするほど、その精巧さに感銘を受けたものです。
2003年、我々は重要な決断をしました。それは、このまま自動車の開発を続けていても、永遠に日米欧の自動車メーカーにはかなわない。
それよりも、我が社の得意分野は電池なので、電池を動力にして走るEVを開発することにしたのです。
これは大きな賭けでした。もしも将来にわたって、ガソリン車の時代が継続していくなら、私たちは敗北者です。
しかし、EVが主流となる時代が到来した暁には、BYDは世界の先駆者になれる。その時は、もしかしたらトヨタのほうが、コダックになるかもしれない」
コダックは、世界最大のカメラフィルムの会社だったが、今世紀に入りデジタルカメラの時代が到来し、淘汰されてしまった。そのデジタルカメラでさえ、いまやスマートフォンによって淘汰されつつある。
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