中国EVの全世界を見据えた大攻勢がはじまった トヨタ ホンダ 日産… 国内メーカーはどう受けて立つ??【第1回/全4回】

■アメリカで通用するか、という不安を抱えた1965年のトヨタと同じ

 この時のBYD最高幹部へのインタビューで、「トヨタ」という名前は、もう一回出てきた。

「EVを世界に問うていく我々の心境は、1965年のトヨタと同じです。当時のトヨタは、自分たちは果たしてアメリカ市場で通用するのかという不安を抱えたまま、乗り込んでいったわけです。

実際、アメリカ人は当初、日本の自動車メーカーに疑心暗鬼でしたが、やがて受け入れた。同様に、我が社のEVも、やがて日本を含めた世界が受け入れてくれると信じているのです」

 結論を言えば、BYDは「賭け」に勝った。

 周知のように、世界の自動車産業は、脱炭素の波を受けて、いまや一斉にEVに向かいつつある。

 トヨタも昨年12月14日、豊田章男社長が、今後4兆円規模の投資を行い、2030年に30車種、計350万台のEVを世界で販売すると発表した。

 これまでの目標は200万台だったので、EVシフトを鮮明にした格好だ。

 だが、EVに関してはBYDに一日の長がある。BYDの昨年のEV販売台数は、32万810台。これに対しトヨタは、BEV(バッテリー電気自動車)が1万4407台、FCEV(燃料電池車)が5918台で、合わせて2万325台と、BYDの1割にも満たない。

2030年までにEV30車種を投入すると発表したトヨタのモデルたち。多種多様だが、間に合うのか?
2030年までにEV30車種を投入すると発表したトヨタのモデルたち。多種多様だが、間に合うのか?

 特にBYDが有利な点は、もともと電池の会社なので、「EVの心臓部」と言える電池を自社でまかなえることだ。この点は、トヨタが電池メーカーと提携しないとEVが作れないことを考えれば、大きな経費とリスクの回避になる。

 実際、BYDは、昨年10月31日から11月13日までイギリスのグラスゴーで開かれたCOP26(国連気候変動枠組条約締約国会議)の公用車に採用されるなど、飛躍的に知名度を上げている。

 その意味では、「満を持して」日本市場に乗り込んで来たのである。

■「BYDはトヨタの何を欲しがっているのか」

 2020年4月、上海モーターショーで、トヨタとBYDは、「『BYDトヨタ電気自動車科学技術株式会社』を3月に設立した」と発表した。日中の両雄による初の合弁会社だ。

 このニュースは、日本でよりもむしろ、中国で話題になった。それは、「ついに世界のトヨタがBYDに合弁会社設立を求めてきた」という文脈だった。

「BYDはトヨタの何を欲しているのか?」という中国紙記者の質問に、匿名の中国の自動車業界関係者は、こう答えていた。

「電気自動車というのは、いわば『走る電気製品』であり、BYDがトヨタから学びたいことは、それほど多くない。

それでもトヨタと合弁したのは、何より『世界のトヨタ』の看板が欲しかったからだ。この看板があれば、世界市場にどこでも入っていける」

 1月末、香港に上場しているBYDの株価の時価総額は、トヨタの3割を超えた。さらに近日中に、子会社のBYD半導体を、中国初の車体専用半導体会社として、深圳創業板市場に上場する予定で、1月27日に取引所の審査を終えた。

 昨年、中国の自動車輸出は201万5000台と、初めて200万台を超えた。まさに「かつての日本」の姿を見せつつある。

 次回は、中国国内で起こっている「EV革命」についてお届けする。(全4回の第1回。第2回は11日(水)20時公開)

●近藤大介…1965年生まれ。東京大学卒業、国際情報学修士。講談社『現代ビジネス』『週刊現代』特別編集委員、編集次長。主著に『ファクトで読む米中新冷戦とアフター・コロナ』(講談社現代新書)、『アジア燃ゆ』(MdN新書)ほか

【画像ギャラリー】時に2003年。「EVで勝負する」と賭けにでた中国・BYD。その背景をギャラリーでチェック!(5枚)画像ギャラリー

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