最高齢自動車ジャーナリスト【御大】三本和彦の「喝」!!

■金口木舌③もう思い残すことはない? 三本氏の「遺言状」

ボクは今、齢86。この先、いつまで生きられるか正直わかりません。幸い、足がちと悪い以外は、このとおりバリバリ元気ですが、いかんせんあまり外に出歩けなくなってしまいました。連れ出してくれる相棒も少なくなりましたので見聞が狭まっていないかと危惧している次第です。

で、最後に「遺言状」を書いてくださいと……。実はこれで公開遺言状を書くのは3回目(笑)。今の思いを書き留めてみたいと思います。

ボクはかろうじて太平洋戦争を乗り越え、戦後、カメラ好き、クルマ好きが高じて、写真を撮って言いたいことを書く、いわばクルマ界のフォトジャーナリストになりました。40代以降はTVKの新車情報を中心に、自動車ジャーナリストとして、好き勝手に言いたいことばかり、言ってきました。

今思うと、日本のモーターリゼーションの発展をこの目で見てこれたのは本当に幸せでした。1960年代、東京駅八重洲口に小林彰太郎と2人で行ってね。リンカーンが来たから乗ってみようとか、短距離を2人でお金を出し合って乗っていた頃が懐かしい。ボクはその後、新聞社に入り、彼は『カーグラフィック』を作りました。

アメリカ大使館で後に『カーグラフィック』誌を立ち上げる故小林彰太郎氏とともに日本語教師をしていた頃の写真。左が三本和彦氏、右が小林彰太郎氏

最近、ボクが常々思うのはクルマごとの差がなくなってきたこと。装備であったり、ハンドリングであったり、すべてのクルマは高品質で、言い方は悪いですが、「外れ」のクルマはほぼ見あたりません。果たして普通の人は、スペック表を見たり、ハンドリングがいいか、悪いかなど、気にしているのでしょうか?

もちろん、ベストカーを買っていただいている読者は気にしていると思いますが、もう、そういう時代じゃないのは明らかです。

ボクがこの連載の最後に、遺言状として、日本の自動車雑誌、自動車ジャーナリストに対して、言いたいことを書かせてもらいます。

海外試乗会にお呼ばれして提灯記事をばらまかないでください。提灯記事じゃないかもしれませんが、一般ユーザーはほぼそう思っていますよ。同じような時期に発売される自動車雑誌にメーカーから配られた同じような写真、同じような記事が載っています。これじゃ自動車雑誌を買わなくなるのは当然だと思います。昔は気骨ある編集者が各誌にいて競い合っていたものです。

自ら企画して自腹で取材にいって記事を書いてほしいですね。国内でもそうです。メーカーが企画するメディア向けの試乗会では1台の試乗時間は60分、長くても2時間程度でしょう。この短い時間で試乗して評価を下すというのはね。

そして、もっとメーカーの開発者にケチをつけて、メーカーに媚びを売らない、一般ユーザーの視点に立って原稿を書いてください。常に批判的、四角四面的な記事を書いてくれと言っているのではありません。

昔と違って今はネット社会。読者の反応がダイレクトに、すぐに帰ってきます。ニセ者はすぐにバレますが、反面ホンモノはより輝くことができます。

こんな時代にあってもボクがぶしつけ棒を振りかざして怒らなければいけないクルマはまだまだありますし、自動車ジャーナリストが改善すべきと原稿を書いても、マイナーチェンジで改善されていないことも多くなっています。

若者のクルマ離れ、自動車雑誌が売れなくなっている現実を、業界全体で見つめ直してほしいと思います。

現在、活動しておられる自動車ジャーナリストのみなさん、そして、未来の自動車ジャーナリストのみなさん、気骨ある自動車ジャーナリズムであってほしいと願っています。

三本和彦さんに色紙を書いて頂きました

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